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予感
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「……ねぇ、千。やっぱりメールの内容見ていい?」
情事が終わって、しばらくゴロゴロ甘えてきていたリチェールがふと動きを止めて俺を見上げる。
変に疑われるのは嫌だから別にいいけど、人のスマホを見たがるなんて本当に珍しい。
「不安になるくらいなら見ればいいだろ」
風呂に入ってる時にメールが来たりしたら読み上げてもらったり、そのまま返信が面倒なときは口頭で伝えて代わりに返信してもらったりしてるから、ロック解除もできるし別に見ようと思うならいつでも見れるだろうに律儀に聞いてくる辺り、らしいっちゃ、らしいけど。
「じゃ、じゃあ、見ちゃうね。あ、でも怖いから千オレのことぎゅーしててね」
なら見なきゃいいのに。
リチェールは俺のスマホを指でタップして父親からのメールを開いた。
たしか、面子があるから顔合わせだけでもしてほしい。相手もそれなりのお嬢さんだという内容にガキっぽくも見える嫌味が含まれて、相手の顔写真と一緒に送られていた。
「わぁ……めっ…ちゃ、美人……」
リチェールが顔をひきつらせて、パタンと倒れる。
また死んだフリか?と見てると、うーうーと唸り出した。
「なんでうちの千はこんなにかっこいいのー。これくらいの美人なら、オレが月城千でーすとか言って会ったら「チェンジで」って言われて終わりなのに、千絶対気に入られるじゃんー!もうやだー」
途中で入った物真似はまさか俺か。全く似てないし、バカにしてんのかとさえ思うのに、リチェールがやると一々かわいい。
これだけ俺はお前に惚れてるんだから、何がどう心配になるのか。
「こんな美人に言い寄られたら千も絶対、どきってしちゃう。間違いなくしちゃう。やだもう千のばかー」
「お前あんまりにも、ぐじぐじ言ってると無理矢理黙らせるぞ。俺はリチェールがいいって言ってるだろ」
「……千、そういうのブス専とか、ゲテモノ食いっていうんだよー」
ははっと呆れたようにリチェールが笑う。
相変わらず自分のことには鈍感なアホにイラっとする。
お前が男を惹き付ける容姿を理解しないせいで何度傷付いたら気がすむんだ。
その不用心さが危険だといい加減気付いてほしい。
「でも千の趣味が変なおかげでこうしてそばにいれるんだもんね。オレ、ラッキーだ」
えへーっとぴったりくっついて天使のような笑顔を見せられ、苛立ちが簡単に意気消沈する。
こんなに簡単に苛立ちがおさまるなら、世話ないよな。
そもそも、こんなに短気じゃなかったはずだ。
お見合いの話だって、大した問題じゃないのに、リチェールが不安になったらと思うと慎重になる。
リチェールは俺から見ても、俺に振り回されてるなと思うけど、俺だってかなり振り回されてるな、ときょとんと俺を見上げる白い頬を摘まんで、その間抜けな顔に思わず笑ってしまった。
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