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「せーーーじゅーーーろーーーくーーーんっ!学校遅れるよ〜。早く起きてー!」 あれから3週間、あの女男は有無を言わさず俺の周りをうろついた。 母親といた家から出て、芸能事務所の寮に住むよう言われた。 もちろん、ふざけんなって机蹴り飛ばして何度も出て行こうとしたけれど、その度にルリに止められていた。 これがガタイのいい男なら殴って追い払うものを、女みたいな見た目や弱そうな華奢な体つきが弱いものいじめのようで乱暴をしてまで振り払うことを躊躇わせた。 あの社長もズルいよな。わかっててルリをあてただろ。   あの家は事故物件になったことから、損害賠償がかなりの金額になったらしいけど、社長がそれを払うなら事務所にまだ置いてやると言ったことから溝口が支払うことになったらしい。 「行かねぇっつってんだろ」 「学校は社会に出る前に、我慢を覚える場所なの。勉強ついていけなくていいから、頑張って行っておいで」 「うっざ。帰れ」 「本当に嫌なことあったなら無理して行かなくていいけどさ。いじめでもあったの?」 「俺がいじめられるように見えんの?」 「だよね。こんなふてぶてしいやついじめる奴いたらむしろ見て見たい」 あは!と明るく笑う顔に腹が立つ。 毎日毎日、朝からうぜぇよ。 「法事明けで緊張するとは思うけど、がんばろう。オレも学校入るところまではついて行くから」 「来んな」 「ふふ」 「なんだよ。気持ち悪ぃ」 急に笑い出した女男にうんざりして目を向けると、学校に連れ出すことを諦めたのか俺が上体を起こしたベットの隣にごろんと寝転んだ。 「最初何話しかけても無視してたのにやっと会話ができるようになったからちょっと嬉しくて」 そりゃ無視しても無視しても話しかけ続けられたら、追い払う言葉の一つも出るだろ。 溝口の事務所のやつだと思うと、ぶん殴って怒鳴りつけてやりたいのに、こいつの柔らかな笑顔はどうにも毒気を抜かれるようだった。 「会話もできるようになったしさぁ、オレの過去の話少ししていい?」 「………」 「あれはオレの背中にまだ羽が生えてた頃…」 「いいっつってねぇし、初っ端嘘じゃねぇか」 「あはは。ナイスツッコミー」 ケラケラと笑って、俺と同じように上体を起こすと肩と肩が触れるほど近い距離で今度は、笑っているのにどこか真面目な顔で口を開いた。 「まぁ冗談はさておき。オレがまだイギリスにいた頃の話ね」 そう言って話し始めた内容は、明るい声とは裏腹に、思わず顔を強張らせてしまうほど悲惨なものだった。 なんだこいつ。 なんでそれでヘラヘラしてられるんだよ。 「それ本当にあった話かよ」 「調べてみなよ。イギリスの少し古いニュースだけど、母親の方はそこそこ有名人だったから出てくると思うよ〜。母親の名前はエリシア・アンジェリーね。綴り教えようか」 「……いや、いい」 その様子は嘘をついてるようには見えなかった。 それは俺なんかよりよっぽどひどい親からの虐待の内容だった。 そしてそのことが、もし報道されたと言うのなら、被害者であるこいつをひどく辱めるものだっただろう。 だから、イギリスに居られなくて日本に来たのだろうか。 「……理不尽な話だな」 俺の言葉に「だよねぇ」とふっと笑うと、そいつは顔を傾けて覗き込んできた。 「清十郎くんだって親がそんなことになったって世間に知られたら、好奇の目に晒されて、大なり小なり風当たりは強くなると思うよ。あの時社長がマスコミへのリークを止めたのは、溝口さんのためとかじゃなくて、そう言うことなんじゃないかな」 思わず、目を見開く。 こいつそんなことを伝えるために、あんな酷い過去を俺に話したのか。 「てか、なんでその話俺にしたわけ。俺がお前の顔写真付きでネットとかに広めたら今度はこっちでも生きづらくなるだろ」 「あはは。かもね。でも、清十郎くんはそんなことしないでしょ?」 なんでそう言い切れるんだよ。 俺、お前と信頼関係築いた記憶皆無だけど。 そういうと、ルリは笑って今から築いて行くんじゃんと俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

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