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第1部 第1話 双子の天使に逢いました
「あ、真名瀬くん、今度うちに入った新人ちゃんがね、そこの控え室にいるから。君の初めての後輩だし、いろいろ教えてあげてくれる?」
マネージャーにそう言われて開けたドアの先に、同じ顔をした天使が2人いた。
(……うわ。双子なのか。すごい綺麗な子たちだな……)
智也は内心、感嘆の溜め息をついて2人に見とれてしまった。
うちはモデル事務所だから、若くて綺麗な女の子なんてゴロゴロしている。まあ見た目の愛らしさと中身が、必ずしも一致しているとは限らないが。
だが、それにしても目の前の瓜二つの姉妹の美しさは、ちょっと別格な気がする。
ホームページに出す宣伝用の写真撮影の為なのだろう。お揃いのデザインで色違いの衣装を着て、髪型も化粧も合わせ鏡を見るようにそっくりだ。
「あの……今日からこちらでお世話になる橘里沙です。よろしくお願いします」
純白の衣装を身にまとった少女が立ち上がり、少しはにかみながらそう言って、ぺこんと頭を下げた。
「あ。よろしく。俺は真名瀬智也。ここでは君たちより1年先輩になるのかな」
智也はそう言ってにっこり笑いかけると、椅子に座ったままのもう1人の少女に目を向けた。
「双子なんだね。同じ顔が並んでるからびっくりしたよ。どっちがお姉さん?」
「あ、はい。私の方です」
先に里沙と名乗った方の子が、手をあげて答えた。もう1人は口をきゅっと引き結んだまま、上目遣いに智也を見つめている。
(……妹の方は人見知り、なのかな。今日が初日って言ってたから、緊張してるのか。うわ。参ったな。俺、年下の子の扱い方なんて知らないけど)
智也自身、それほど社交性のあるタイプじゃない。家では3人兄弟の末っ子で、構うよりは構われる側だった。年下の、しかも女の子だなんて、どう接していいのか見当もつかない。
(……何か和ませるような言葉をかけてあげたいけど、思い浮かばないなぁ……)
智也は出来るだけ優しそうな笑顔を作って、椅子に座る少女の前で屈み込んだ。
「初めまして。君が妹さんか。名前、教えてくれる?」
無表情だった少女の片方の眉がきっと上がった。みるみるうちに不機嫌そうな顔になり、キツい目をしてこちらを睨みつけてくる。
「あんた、近眼?どこ見て言ってんの?」
「っ!祥っ。ね、お願い、やめてよ」
驚いて固まっている智也の前で、少女は軽やかに立ち上がり、慌てて駆け寄ってくる里沙をぐいっと抱き寄せて
「妹じゃねーし。俺はお・と・こ。名前は橘祥悟。真名瀬先輩、よろしくお願いしまーす」
呆気に取られている智也に、祥悟はそう言うと、姉の里沙と顔を並べて、まるで挑発するような艶やかな笑顔を浮かべた。
このちょっと衝撃的な出会いが、真名瀬智也の長い長い片恋の始まりだった。
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