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第19話 舞い降りた恋9
慌てて手帳を隠す智也に、祥悟は下から伸び上がって顔を覗き込んできて
「決まってないんだ? じゃ、智也んち、行こ」
「……え?」
祥悟はくるりと背を向けて、エレベーターの方に歩き出した。
そのままなんとなく押し切られて、何故か自分のマンションの部屋にいる。他にいろいろ候補をあげて抵抗を試みたが、どれも祥悟にあっさりと却下された。
(……まさかいきなり、お家デートって……)
物を増やすのは好きじゃないから、部屋は基本、散らかってはいない。いやむしろ、モデルルームか?と突っ込みたくなるくらい、何にもない殺風景な部屋だ。
それでも、急な来客に、智也はそわそわしっぱなしだった。
そんな智也にはお構いなしに、祥悟はまっすぐリビングに向かっていってドアを開けた。
「うわーお。すっげーシンプル」
リビングに入るなり、祥悟が呆れたような声をあげた。
確かにシンプルかもしれない。生活に必要最低限のものしか置いてないのだ。5歳上の長兄が前に泊まりに来た時も「せめて客用の布団ぐらいは置いておけ」と苦笑いして、後日布団一式を送りつけてきたくらいだ。
「ごちゃごちゃしてるの、好きじゃないんだ」
思わずする必要もない言い訳をすると、祥悟はくるっと振り返り
「いいじゃん。こういうの。なんかすっげー智也らしくってさ。俺は好きだな」
祥悟はさり気なく、またドキリとすることを言い放ち、すたすたと部屋の奥へ行ってしまった。
(……うわ。だから……心臓に悪いって)
ソファーにぽふんっと腰をおろしてキョロキョロと部屋中を見回している祥悟をその場に残し、智也はキッチンに向かった。
海外赴任で留守にしている伯父から間借りしているこの部屋は、もともと単身用ではない。キッチンも風呂やトイレも、智也1人で使うには充分過ぎる広さと機能性を備えている。
(……何か飲み物……あったかな)
伯父が置いていった黒い大きな冷蔵庫を開けてみるが、だだっ広い庫内には、ミネラルウォーターと缶ビール、つまみ用のチーズが数種類、それしかない。
智也は振り向いて、リビングのソファーで寛ぐ祥悟をちらっと見た。
(……ビール……はダメだし。お湯沸かしてもコーヒーぐらいしかないな。かといって、水だけっていうのは……)
すっかり舞い上がってしまって、途中コンビニで何か買うという発想もなかった。
祥悟があれほどの甘い物好きなら、なにかデザートもあった方がいいだろう。
(……よし。ちょっとコンビニ、行ってくるか)
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