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第38話 波にも磯にもつかぬ恋9
「そうか。キスだけで逃げられたのか。それは残念だったね」
ほっとして思わず呟いてしまった。祥悟はきっとこちらを睨みつけて
「うわ。なんかすっげームカつく。なに、その嬉しそうな顔」
「や、してないよ、嬉しそうな顔なんか」
「ちぇ。自分は最後までヤれたからってさ。ドヤ顔すんな」
「だから、してないって。言い掛かりだよ、それ」
祥悟はぷりぷり怒って手を振りほどくと
「ふん。邪魔入っただけだし? 次のチャンスは逃さねえもん。絶対に最後までしてやるし」
「やり方、知ってるのかい?」
「は?」
「キスより先。女の子の抱き方だよ」
祥悟はまじまじとこちらを見つめて片眉をあげ
「おまえ、バカにしてんだろ」
「してないよ。兄貴として心配してるだけ」
「兄貴……。そっか。智也って兄さん2人いるんだっけ。 そういうのってさ、やっぱ兄貴から教えてもらったりすんの?」
(……いや、普通はしないから。兄貴たちとそんな話、俺、したことないし。でも……)
智也は好奇心いっぱいな祥悟の顔を、じっと見つめた。
(……どうしよう。こんな無邪気な顔見てると……)
つい邪な考えが浮かんでしまう。
いや、だめだ。止めておけって。
でも……。
さっき、惟杏さんと祥悟がベッドで絡み合ってるシーンを、かなりリアルに想像してしまって落ち込んでいた反動が……。
「教えてあげようか?女の子の……悦ばせ方」
言いながら罪悪感がもたげてきて、つい微妙に目を逸らしてしまう。
「え? まじ? 教えてくれんの?」
(……ああ。この素直な反応が……可愛い。……心が痛むけど)
「うん。なんだったら、実地で教えるよ」
「へ?実地って……?」
「うん。実地」
祥悟は不思議そうに首を傾げ
「……なんかよく分かんねぇけど、じゃ、教えてよ」
智也はごくりと唾を飲み込むと
「いいよ。じゃ、デザート食べたら移動しようか」
目を逸らしたまま微笑んだ。
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