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第39話 波にも磯にもつかぬ恋10

「なぁ、智也。ここって……」 「うん‍?」 祥悟は建物を見上げ、入り口を興味深げにしげしげと見てから、こちらを睨みつけた。 「……ラブホじゃん」 「そうだね、でも割とシティホテルに近いよ。出来たばかりだから部屋も綺麗だしね」 祥悟はもう1度、ホテルの入り口に目をやり 「でも、休憩Timeって書いてある」 「そうだね。あ、そうか。泊まりがいいなら、別に休憩じゃなくても……」 「ばーか。そういうこと、言ってんじゃねーし。俺、外泊禁止だって言ったじゃん」 意外にも妙に尻込みしている祥悟に、智也はにこっと笑って 「……もしかして、祥。こういうとこに来るの、初めてかい‍?」 「は‍? 初めてじゃねーし」 祥悟はツンっとそっぽを向いた。 「そうか。じゃあ、入るよ」 智也がそう言って歩き出すと、祥悟は慌てて振り返り 「ちょっ、待てってば。そうじゃなくてさ、なんで俺が、おまえとラブホ、入んなきゃいけないんだよ‍?」 智也はすっとぼけて、不思議そうに首を傾げた。 「え‍? ……だって。祥は俺にいろいろ教えて欲しいんだよね? でも俺のマンションは嫌なんだろう? だったらこういうとこ、入るしかないよね」 智也の返事が意外だったのか、祥悟はぱちぱちと瞬きした。 その表情が無邪気ですごく……可愛い。 「あのさ。実地で教えるって、何すんのさ」 「女の子の愛し方」 「や。それじゃ、全然分かんねぇし。っていうか、それってこういうとこ入んないと、ダメなのかよ」 智也はうーんと首を捻って 「祥は、相手にバカにされるのは嫌だから、俺にキスを教えてって言ったよね?」 「う……まあ……言ったけど‍?」 「女性をこういうところに連れてくるのも、スマートに格好よくやりたいよね?」 「え……。うー。そりゃ、格好いい方がいいに決まってるじゃん」 「だから、まずはそこから練習だね」 当然と言わんばかりの智也に、祥悟は腑に落ちない様子でもう1度、ホテルの入り口をじっと見つめた。 (……むちゃくちゃ言ってるよなぁ……俺) さっき祥悟は強がりを言っていたが、ラブホに入るのは、本当に初めてなのかもしれない。ませた言動はしていても、祥悟はまだ16歳になったばかりなのだ。そんな経験なんかなくて当たり前だろう。 さんざん振り回されていた祥悟に、仕返しをしたいわけじゃない。でも、戸惑っている彼の表情が可愛くて、ちょっと意地悪してみたくなる。 「怖いなら、やめておくかい?」 わざとにこっとしながらそう言うと、祥悟は案の定ムキになって 「はぁ‍? 誰が怖いって言ったんだよ。別にいいぜ。……入る」 ちょっとやけくそ気味に宣言して、入り口に向かって歩き出した。

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