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第75話 君との距離感10

「可愛い……。うーん……」 祥悟は呟いて、しきりに首を捻っている。 もしかして、容姿はそれほどでもない娘なんだろうか。 (……祥は、面食いじゃないのか‍?) 「優しい子かい‍?」 智也が質問を変えてみると、祥悟はこちらをちらっと横目で見て 「優しい。うん、すっげー優しい。それに可愛いかな。……でも俺に…………………」 最後の呟きは小さくて、走行音にかき消されてよく聞こえなかった。 「年上‍? 年下?」 「……俺のことより、おまえはどうなのさ? 可愛いわけ?その子」 「俺‍? 俺の相手は……」 俺の片想いの相手は君だよ。 そう、ぽろっと言いそうになるのを、智也は慌てて飲み込んだ。 「……そうだね。天使みたい……かな」 祥悟はこちらを向いて、目を見開いた。 「天使‍? ……ふぅん……。じゃあすげえ可愛い子なんだ‍?」 「……まあね」 「でも智也が片想いって、なんで‍? 告白とかしてねえの‍?」 「そうだね。今のところ、打ち明けるつもりは、ないからね」 祥悟はこちらをじーっと見つめたまま 「訳あり、かよ」 ぼそっと呟いて首を竦めた。智也は苦笑して 「まあ、そんなとこかな」 それきり、しばらく会話は途切れた。互いに相手のことをそれ以上言う気はないのだと気づいたから。 でも内心、智也はさっき以上のショックを受けていた。 やはり祥悟には片想いの相手がいるのだ。軽いノリでその娘のことを話してくれないのは、きっと相手のことをそれだけ大切に思っているからだ。自分が祥悟を想うのと同じように……。 (……どんな子なんだろう。どうして片想い‍? そういう相手がいるのに、どうして椎杏さんと一夜を共にしたの‍?) 聞きたい言葉が、胸の中に次々に溢れてくる。でもどれも、口に出すことは叶わない。

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