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第76話 君との距離感11

「なあ、智也」 黙って窓の外の流れる景色を見つめていた祥悟が、こちらを見る。 「何だい‍? あ、もうすぐ海の見える公園に……」 「もし俺がさ、女の子だったら……おまえ、俺のこと好きになったりする‍?」 どきっとして、智也は言いかけた言葉を飲み込んだ。言葉の真意が分からなくて、どう答えようか迷っていると 「無理か。おまえ、好きな子いるんだもんな」 そう言って祥悟は苦笑した。 (……え。待って。それって……どういう意味で言ってるの‍?) 期待しちゃいけない。 これは仮定の話だ。 でももし、祥悟が女の子なら。 俺は……。 「祥、君は……」 「俺さ、こんな見てくれじゃん‍? 女に産まれた方が、絶対に得だと思わねえ‍?」 (……いや。そんなことないよ。祥。君はそのままで) 「男ならさ、智也みたいな外見が良かったし」 祥悟はちぇっと舌打ちすると、 「女だったら、おまえと付き合ってみたいかも。おまえ、優しいし、ちょっとエロいし、絶対に彼氏にしたら楽しいのにさ。残念……」 智也は、何をどう言えばいいのか完全に混乱してしまった。 それは、自分のことをタイプだと言ってくれてるんだろうか。それとも単に、女に生まれたかった願望というだけ‍? 「祥。君がもし女の子だったら」 「ん‍?」 「多分、君とは付き合わないと、思うよ」 (……だって、俺はゲイだから) 「…………」 祥悟はしばらく口をつぐみ、無表情でこちらを見ていたが、やがてぷいっと目を逸らして 「だよな。ま、俺、女じゃねーし」 ぼそっと呟いた。 今日は何だか、祥悟との会話が噛み合わない。お互いに、言いたいことが伝えられていない気がする。どうしてこんなにもどかしいんだろう。 智也がもやもやした気持ちを持て余していると 「椎杏さんとさ、こないだホテルで過ごしたじゃん‍?」 よりにもよって、一番聞きたくて、聞きたくない話を持ち出してきた。 「ああ。そうだね。その話が途中だった……」 智也はポーカーフェイスを作りながら、真っ直ぐに前を向いてハンドルを右にきった。 もうすぐ、海が見える公園の駐車場だ。 「一応さ、智也に教わった通り、いろいろやってみたのな」 「そうか。……上手くいった‍?」 「んー……まあ、思ってたより呆気なかったし。こんなもんかな……って感じだった。でもおまえに教えてもらってたから、俺、もたもたしないで上手くやれたのかも。……ありがとな、智也」 智也はそっと唇を噛み締めた。そんなことでお礼を言われたって、ちっとも嬉しくない。 ……というより……苦しい。 胸の奥の冷たいものが、ずしんと重さを増していく。 (……期待なんかもちろん、していないんだ。でも、苦しいよ、祥。君のことをもっと知りたい。でも……知りたくない)

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