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第79話 君との距離感14
その後、祥悟はご機嫌な様子で、惟杏さんとの夜のことを詳細に教えてくれた。
智也はつきつきと痛む心は決して表に出さずに、穏やかに祥悟の話に相槌を打っていた。
満足そうな祥悟を車で社長の家まで送り届け、マンションに戻った智也は、ここしばらくは止めていた小説の続きでも書こうかと、ノートパソコンを開いてみた。
書きかけの小説の続きを思い浮かべようとして、でも出てきたのは「祥悟」という文字。
真っ白な画面に、無意識に文字を打っていた。
ー『祥悟』と。
じっと見つめていると、その文字がだんだんぼやけて歪んでくる。
やがて、頬に熱いものが伝い落ちた。
「……祥悟」
小さく呟いてみる。
愛おしくてせつないその名前を。
涙が、後から後から溢れて、止まらなくなった。
その日から智也は、趣味の物書きの他に日記のような散文のようなものを綴り始めた。
タイトルはさんざん悩んで『天使のいる情景』に決めた。天使とはもちろん、祥悟のことだった。
彼について思うこと、彼と過ごした時間のことなどを、思いつくままに書き留めていく。
我ながら、乙女趣味が過ぎるな……とは思ったが、これは口に出せない言葉の代わりだ。
祥悟の前では、自分は彼が望む兄貴代わりを完璧に演じてみせる。そして、こぼれ落ちそうになる彼への想いは、ここに全て吐き出すのだ。
そうやってバランスを取っていこうと思っていた。これから先も、祥悟の傍らにいる為に。
祥悟は姉の里沙との双子キャラがウケて、その後ますます人気のモデルになっていった。
雑誌やショーだけでなく、テレビ番組からのオファーも舞い込んできたが、事務所の社長は双子をタレントとして売り出すことには、あまり乗り気ではなかった。
それはおそらく、2人の出自の問題だ。
テレビに顔を出すようになって必要以上に派手な活躍をするようになると、彼らの過去をいたずらに暴こうとする者も出てくるだろう。施設育ちの彼らの過去についての詳細は、社長と彼ら以外は事務所の誰も知らないトップシークレットだった。
もちろん、智也も詳しくは知らない。
多忙を極める祥悟との付き合いは、たまの休みに祥悟の方から気紛れに連絡が来て、細々とだが続いていた。月に1~2度会える時もあったが、スケジュールによっては1ヶ月以上まるまる会えない時もあった。
会う度に、祥悟は更に垢抜けて美しくなっていった。まだ少年っぽさが残っていた顔つきも少しずつ大人びてきて、表情や仕草にも艶が増していく。
そんな彼の成長を、智也はいつも眩しい思いで見守っていた。
封じ込めた彼への想いは、会う度に募っていったが、おくびにも出さずに物分りのいい兄貴役を続けていた。
そんなある日。仕事を終えた智也の携帯電話に、祥悟からの着信があった。
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