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第82話 甘い試練3
思わず身を乗り出すと、祥悟は壁に寄りかかったまま大きなため息をついて
「スキャンダルとか、気にすんならさ、ドア閉めて中、入れよ」
酷く億劫そうに言い放つ。
その態度に智也はカチンときたが、無言でドアを閉めて中に入った。目の前で仁王立ちのアリサの横をすり抜け、祥悟に歩み寄ると
「苦しい? とにかく中に行こう」
祥悟の腕をがっちりと掴むと、よろける身体を支えながら奥の部屋に向かった。
ツインベッドの乱れている方は見ないようにして、奥の未使用のベッドまで祥悟を連れていき、座らせる。
「華奈さん。悪いけど、水持ってきてもらえるかな?」
「いいわよ」
祥悟は一人で座っていられないのか、ずるずるとこちらに寄りかかってくる。支えながら智也も隣に腰をおろした。
いろいろ言ってやりたいことはあるが、祥悟の顔色が悪すぎる。さっき現れた時は真っ赤だった顔が、今は透き通るほど白くなっていた。
自分が知る限り、祥悟はこれまで飲酒はしていない。多分、二十歳の記念にと調子に乗って飲みすぎたのだ。
「はい。これ」
ミネラルウォーターを注いだグラスを、華奈が差し出してくる。ちらっと見るとバツの悪そうな顔をしていた。
「ごめんなさい。初めてだと思わなくて……。ちょっと飲ませすぎちゃったかも」
智也は無表情でグラスを受け取ると
「ここで飲んでたの?」
「ううん。店で食事して飲んでたの。祥悟くん、お酒は強いって言うから……」
「なに、飲んでた?」
「ビールと……ワインと、日本酒」
智也は小さくため息をつくと、気遣わしげな華奈に無理やり微笑んでみせた。
彼女が悪いわけじゃない。
完全に祥悟の自業自得だ。
智也はグラスを祥悟の口元に持っていくと
「祥。これ、飲んで?」
祥悟はのろのろと顔をあげ、苦しそうな表情で首を振った。
「むり……」
グラスを持たせようとしても、手はだらんと下がったままだ。
智也はもう1度ため息をつくと、グラスを煽った。祥悟の顎を掴んで上を向かせると、唇を合わせる。含んだ水を少しずつ、祥悟の口に流し込んでいった。
こく、こくっと祥悟が喉を鳴らす。
水がなくなると、再びグラスを煽って同じことを繰り返した。
女の子2人の強い視線を感じたが、あえて無視した。
泡立つ心を押し殺してはいるが、無性に腹が立っていた。
自分にこんな役まわりをさせる、祥悟に対しても。
祥悟とさっきまで絡み合っていたであろう、華奈に対しても。
お人好しにこんなことをしている、自分に対しても。
腹が立って腹が立って、仕方がなかった。
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