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第81話 甘い試練2
「祥……」
智也が呆然として呟くと、祥悟は気だるそうに壁に寄り掛かりながら首を竦めた。
「早かった、じゃん」
バツの悪そうな祥悟の瞳が揺れている。
「お酒、飲んでるの?」
この状況に、いろいろ突っ込みたいことはあるが、まずはそこだ。
祥悟は明らかに酔っている。うちの事務所は、飲酒は二十歳になるまでは厳禁だったはずだ。
「んー……飲んだ」
「飲んだ、じゃないよね? 君、相当酔ってるだろう。お酒はダメだって……」
「だって二十歳になったらOKじゃん」
「え……」
途端に祥悟は膨れっ面になり
「今日、俺の誕生日。二十歳になったし?」
……え……。
「……誕生日?」
「おまえ、冷てえのな。忘れてたんだ?」
……いや、だって……。
公式発表では祥悟の誕生日は夏だったはずだ。今はまだ1月で……。
「今日、なの? 君の誕生日」
「そ。それにさ。今この状況で突っ込むとこ、そこかよ? 智也」
祥悟の呆れ声に、智也はようやく、自分をすごい目で睨んでいる少女に目を向けた。
正直、1番突っ込みたかったのはこの子のことだが、心がそれを拒絶していたのだ。
「祥。この子は誰?」
「あんた誰って聞いてるの、こっちなんだけど」
少女は形のいい眉を吊り上げ、両手を組んで下から睨めつけてくる。その生意気そうな表情に見覚えがあった。
水無月アリサ。
うちの事務所の新人モデルだ。
たしかドイツと日本のハーフで、4ヶ月ほど前に社長がスカウトしてきて、かなり熱心に売り出しをかけている期待の新人だ。
1度挨拶されただけで一緒の仕事はなかったから、すぐには分からなかったが。
智也は眉を潜め、少女の言葉は無視して祥悟を睨みつけた。
「この子、どうしてここに? 君が連れてきたのか?」
祥悟はぷいっと目を逸らした。
「ちげーし。こいつが勝手についてきたんだよ」
「勝手に? そんなわけないよね。祥……」
「ねえ。今度は誰が来たの?」
祥悟を問い詰めようとした自分の言葉を、遮るもうひとつの声。
奥の部屋からもう1人、ガウンを羽織っただけのしどけない格好の女の子が現れた。
智也は息を飲み、その子を見つめる。
そちらは、事務所は違うが超売れっ子モデルの新城華奈だった。
「あら……真名瀬くん? そっか。お目付け役が来ちゃったのね」
華奈は何度か一緒に仕事をしているし、たまに食事にも行く友人の1人だった。
アリサと違って余裕のある態度でこちらと祥悟を見比べ、イタズラそうな目をして笑っている。
アリサはきちんと服を着ているが、祥悟も華奈も素肌にガウンを羽織っただけ。
明らかに……そういうことの後、という風情だった。
智也はますます眉間の皺を深くして、再び祥悟を睨みつけた。
「祥。君は……いったい何をやってるの? こんなこと、社長に知れたら……」
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