95 / 349
第95話 甘美な拷問3
祥悟に背を向けてシャツを脱ぎ、ベルトを外した。ジーンズをおろすのに躊躇していると
「なあ、智也。どうだった?」
祥悟の質問がどれのことを聞いているのか分からず、半分おろした状態で首だけ彼の方を向いた。
「え……っと。何が?」
祥悟は意味ありげににやっと笑うと
「いいから、早く脱いでこっち来いってば」
祥悟の意味深発言に、智也はちょっと赤くなりながら、思い切ってジーンズを脱ぎ捨てた。
彼の言葉に他意なんかないのに、妙に意識してドキッとしまう自分が気恥ずかしい。
シャツとトランクスだけになって、祥悟の方はあまり見ないようにしながら、ベッドに歩み寄った。布団をめくりあがろうとすると
「おまえさ、それダサい」
「え?」
「下着。あのさ、おまえだって一応見た目が資本のイケメンモデルじゃん? もうちょっと気ぃ遣ったもん穿けよな」
祥悟はシーツにうつ伏せて両手で頬杖をつきながら、じっとこちらを見ている。その視線が、自分の股間に向いているのに気づいて、智也は顔がかぁっと熱くなるのを感じた。
「あ、ああ~、うん。そうかな? これはダサいかな?」
「女と寝る時、言われたりしねーの?」
「…っ。いや、それは特には……」
「ふーん……。おまえと付き合う女って、きっと優しいんだろな。なんか、そんな感じするわ」
智也は祥悟の視線を避け、急いでベッドにあがって布団を被った。これ以上、見られていたら、余計な場所がうっかり反応してしまいそうだ。
「灯り、消すよ?」
「なあ、智也」
祥悟は答えず、ずりずりと智也ににじり寄ってきて
「さっきの質問」
「……なに?」
「どうだった? 俺のキス」
……っ。
顔を寄せてくる祥悟の目が、悪戯っぽく煌めいている。その目が眩しくてふいっと逸らすと、健康そうな赤い唇にそのまま吸い寄せられた。
……祥悟の……キス。
さっき、華奈と口付けていた時の表情。
そして、薄く微笑んだ唇を見せつけるように、アリサの口をついばみ始めた祥悟の横顔。
その男の色気を滲ませた艶っぽい顔が、脳裏に鮮やかによみがえってくる。
悩ましい息遣い。
濡れた舌の絡み合う水音。
智也はぎゅっと目を瞑って、妖しい情景を頭から無理やり追い出した。
「どうって……?」
「最近さ、おまえとキス、してねーじゃん? 出逢った頃は、おまえにキスのやり方教わったりしてたのにさ」
そう。あの頃は、無邪気にせがむ祥悟に、女の扱いの手ほどきをしてやると、やましい下心を隠してキスや愛撫の仕方を教えていた。
この優秀な生徒は、それを即、女の子に実践しては、無邪気に戦利報告をしてくれたのだ。
だがそれも最初のうちだけで、その後、祥悟は師匠の自分よりすっかり経験値をあげてしまった。ここ2年ほどは、一緒に出掛けたり食事をすることはあっても、祥悟の身体に触れることはなくなってしまっていた。
ともだちにシェアしよう!