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第95話 甘美な拷問3

祥悟に背を向けてシャツを脱ぎ、ベルトを外した。ジーンズをおろすのに躊躇していると 「なあ、智也。どうだった?」 祥悟の質問がどれのことを聞いているのか分からず、半分おろした状態で首だけ彼の方を向いた。 「え……っと。何が?」 祥悟は意味ありげににやっと笑うと 「いいから、早く脱いでこっち来いってば」 祥悟の意味深発言に、智也はちょっと赤くなりながら、思い切ってジーンズを脱ぎ捨てた。 彼の言葉に他意なんかないのに、妙に意識してドキッとしまう自分が気恥ずかしい。 シャツとトランクスだけになって、祥悟の方はあまり見ないようにしながら、ベッドに歩み寄った。布団をめくりあがろうとすると 「おまえさ、それダサい」 「え?」 「下着。あのさ、おまえだって一応見た目が資本のイケメンモデルじゃん? もうちょっと気ぃ遣ったもん穿けよな」 祥悟はシーツにうつ伏せて両手で頬杖をつきながら、じっとこちらを見ている。その視線が、自分の股間に向いているのに気づいて、智也は顔がかぁっと熱くなるのを感じた。 「あ、ああ~、うん。そうかな? これはダサいかな?」 「女と寝る時、言われたりしねーの?」 「…っ。いや、それは特には……」 「ふーん……。おまえと付き合う女って、きっと優しいんだろな。なんか、そんな感じするわ」 智也は祥悟の視線を避け、急いでベッドにあがって布団を被った。これ以上、見られていたら、余計な場所がうっかり反応してしまいそうだ。 「灯り、消すよ?」 「なあ、智也」 祥悟は答えず、ずりずりと智也ににじり寄ってきて 「さっきの質問」 「……なに?」 「どうだった? 俺のキス」 ……っ。 顔を寄せてくる祥悟の目が、悪戯っぽく煌めいている。その目が眩しくてふいっと逸らすと、健康そうな赤い唇にそのまま吸い寄せられた。 ……祥悟の……キス。 さっき、華奈と口付けていた時の表情。 そして、薄く微笑んだ唇を見せつけるように、アリサの口をついばみ始めた祥悟の横顔。 その男の色気を滲ませた艶っぽい顔が、脳裏に鮮やかによみがえってくる。 悩ましい息遣い。 濡れた舌の絡み合う水音。 智也はぎゅっと目を瞑って、妖しい情景を頭から無理やり追い出した。 「どうって……?」 「最近さ、おまえとキス、してねーじゃん? 出逢った頃は、おまえにキスのやり方教わったりしてたのにさ」 そう。あの頃は、無邪気にせがむ祥悟に、女の扱いの手ほどきをしてやると、やましい下心を隠してキスや愛撫の仕方を教えていた。 この優秀な生徒は、それを即、女の子に実践しては、無邪気に戦利報告をしてくれたのだ。 だがそれも最初のうちだけで、その後、祥悟は師匠の自分よりすっかり経験値をあげてしまった。ここ2年ほどは、一緒に出掛けたり食事をすることはあっても、祥悟の身体に触れることはなくなってしまっていた。

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