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第96話 甘美な拷問4

「すごく……色っぽかったよ」 痰が絡んだような声が出てしまって、智也はこほっと咳払いした。 「色っぽい?」 「うん……なんて言うか……ぞくっとした」 「ふーん……。俺さ、キス上手くなってる?」 祥悟は息がかかるくらい顔を近づけ、無邪気にぴたっと肩をくっつけてくる。避けるわけにもいかなくて、智也は身体を強ばらせた。 「う、上手く……なってるかは、わからないよね。俺が君とキスしたわけじゃ、ないし」 ……ばか。何言ってるんだよ。そんな余計なこと、言ったら。 薄い布越しに、祥悟の体温を感じる。ボディソープ混じりの彼の体臭が、甘く鼻を擽る。 案の定、祥悟は楽しげに目を煌めかせて 「そっか。してみないと、わかんない、か」 呟く祥悟の形のいい唇の端がきゅっとあがる。 智也はこくっと唾を飲み、その赤い誘惑から必死に目を逸らした。 「ねえ、祥、いつまでも、お喋りしてると」 「じゃ、キス、してみる?」 ……ああ、やっぱり。墓穴を掘ってしまったじゃないか。 智也はドキドキしながら、横目で祥悟をそっと見た。とろりと蜜が滴るような笑みを浮かべた彼が、すぐそこにいる。 ……ダメだ。こんなの……抗えるわけ、ないよ。 そもそも自分は、本気で抗うつもりでいるのか。焦って慌てた素振りで、自分の心はこんなにも期待に胸ふくらませている。 ようやく与えられる甘美な罠に、自ら嵌りにいっているのだから。 智也は吐息を漏らすと、祥悟の頬に手を伸ばした。見つめる祥悟の目がきゅっと細くなる。 「してよ、智也。おまえのキス」 その呪文が引き金になって、智也はがばっと身を起こすと、祥悟の手首を掴んでシーツに仰向けに転がし、上から覆いかぶさった。 「誘ったのは……君だよ?」 無駄な念押しは、自分に課した最後の砦だ。 見下ろす祥悟の顔は満足そうに微笑んでいて、智也はもう1度熱い息を吐き出すと、いよいよ観念して、その赤い唇にむしゃぶりついた。 「……ん……っ」 触れた瞬間、びりっと電流が走った気がした。 がっつくなよ、と自分に言い聞かせながら、でもその柔らかい感触に心が震える。 祥悟が鼻から息を漏らした。 その微かな声にすら、官能を掻き立てられて狂おしくなる。 重ね合う乾いた感触が、うっすらと開いて濡れる。 祥悟の吐く息は、どうしてこんなにも甘いのだろう。 智也は彼の両手首をシーツに縫い付けて、微かに許された彼の綻びに、舌を差し入れた。

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