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第97話 甘美な拷問5

……ダメだ。こんな、キスは。 隠している気持ちが、伝わってしまう。 秘めた想いが、柔らかい粘膜を通して、彼の中に流れ込んでしまう。 祥悟が自分にねだるのはあの頃と同じ、偽物のキス、大人の手管、上手な恋の遊び方だ。 しっとりと重ねた唇に、熱く深く絡めた舌に、彼を愛おしむ自分の想いは望まれていない。 智也はのめり込みたい衝動をぐっと押し殺して、代わりに彼の細い手首をぎゅっと握り締めた。口付けをいったん解き、濡れた唇を舌でなぞる。 「ん……っは……ぁ」 祥悟はうっとりと息継ぎをして、とろりと潤んだ瞳を揺らした。 「ふふ……。やっぱおまえのキスってさ、気持ちいいよね」 満足そうに鼻を鳴らすと、ほっそりとした腕を伸ばして、首の後ろに絡めてくる。 「なあ……。も、おしまいかよ?」 小首を傾げて先をねだる、そのちょっと生意気な仕草が、小憎らしいのに愛おしい。 君が好きだと今打ち明けたら、どんな顔をするのだろう。 「君の方が、もう俺より上手だよ」 掠れた声で囁くと、祥悟は首を竦めて 「そっか? 自分じゃわかんねーし。俺はおまえのキスの方が感じるけどな」 言いながら首の後ろに絡めた手に力を込めてきた。ぐいっと引き寄せられて、鼻と鼻がぶつかりそうになる。 祥悟が舌を出して、誘うようにこちらの唇をちろちろと舐めてきた。 ずきんっと下腹に甘い痺れが走る。 智也は細く息を吐き出すと、差し出された甘い舌を唇でそっと包んだ。 ちゅぷちゅぷと音をたてて、柔らかい蜜を舐る。 「ん……ん……ぅ……んぅ……」 祥悟の鼻から漏れる声に、どんどん艶が増していく。 智也はゆっくりと舌を絡めた。 キスがぐっと深くなる。繋がっている場所が熱く蕩けて混じり合っていきそうだ。腰に何度も甘い熱が走り抜けて、のしかかっている彼の身体に、薄い布越しに自分の熱が当たりそうになる。 智也は舌を絡めたまま腹筋に力を入れて、ぶら下がる祥悟の身体ごと起き上がった。すかさず細い腰に両手を回し、抱き締める。 祥悟は一瞬、驚いたように目を開いたが、またうっとりと目蓋を閉じた。 薄目を開けて彼の表情を窺う。 目蓋を縁取る長い睫毛が微かに震えている。 ……綺麗だ……。 眠れぬ夜に妄想したよりも、数倍美しい生身の天使がそこにいる。さっきからひっきりなしに走り抜ける甘い衝動に、我を忘れて酔い痴れたくなる。 祥悟は、自分にキスの仕方を教わったのだと思っているらしい。でも、こんな欲情を煽るキスは、祥悟としたのが初めてだった。 自分に跨る祥悟の腰が、小さく前後に揺れ始めた。 この美しい天使は、どうしてこんなに残酷なのだろう。 既に痛いほど張り詰めた己の欲の証が、彼の下腹でじわじわと擦られていた。 キスだけでこんなにも堪らなくなっているのに、これ以上煽られるなんて拷問だ。

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