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第98話 甘美な拷問6
「祥。遊びはもうおしまいだよ。そろそろ寝ないと本当に……」
智也は、このまま一気に先に進んでしまいたい欲求を押し殺し、祥悟の身体からいやいや腕を解いた。もしキスを続けて祥悟に下腹を擦られていたら、男として1番情けない醜態を晒してしまいそうだ。
祥悟はうっとりと目を開けると、欲情に潤んだ瞳でこちらを睨んだ。
「ふうん。遊びは終わり、かよ? じゃあさ、本気なら続けていいんだ?」
……っ?
祥悟の意外な言葉に、智也は目を見張り、探るように彼の瞳を見つめた。
祥悟の言動は気紛れで、いつも振り回されてばかりいるが、今夜の祥悟は……ちょっと変だ。何事にも深入りしそうになると、あっさり投げ出してしまうのに、何故か自分から深入りしようとしているような……。
「祥。君……何か、あった?」
「何かって、何さ?」
ぷいっとそっぽを向き、突き放すような答え方をするくせに、腕を掴んだ両手を離そうとはしない。引き剥がそうとしているこちらの気持ちを察したように、掴む指先に力を込めてくる。
「何かあったの?って、聞いてるのは俺の方だよ」
智也が少しだけ語気を強めて念を押すと、祥悟はちら……っとこちらを見て、鼻を鳴らした。
「俺さ、あの家、出ることにした」
何でもないような調子で零れ落ちた言葉に、智也ははっとしたが、何も言わずにその先を待つ。祥悟はまるで独り言のように言葉を続けた。
「もう、いろいろ限界でさ。二十歳になったからもういいかな?って思ってんの」
……いろいろ……? 社長とのことかな。相変わらず折り合い悪そうだしな。
「もともと、あの家に厄介になるの、里沙だけのはずだったんだよね。里沙がちゃんと生活出来るんなら、俺まで世話になる必要ないし?」
「そう。もう……住むところは見つけたの?」
……もしまだなら……ここに一緒に住んでみないかい?
言葉には出さないが、心の中でそっと呟いてみる。
「ん~。一応な。敷金とか礼金とか保証人とか、超めんどくさいからさ、最初は智也んとこ転がりこもうかと思ったんだよね」
……そっか。やっぱりもう見つけてるのか。
……って……え……?
「えぇ?!」
思わず心の中の声が表に飛び出した。
急に大声を出した智也に、祥悟は目を丸くして
「おまえ、なに急に叫んでんのさ?」
「あ。ああ……いや、いいんだ。気にしないでくれ」
心臓がドキドキしている。
智也は慌てて首を振ると、動揺しかけた顔を必死に引き締めてポーカーフェイスを作った。
『智也んとこに転がりこもうかと思ったんだよね』
祥悟の言葉が繰り返し頭の中で鳴り響く。
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