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第122話 硝子越しの想い2

ようやくマンションの自分の部屋にたどり着くと、智也は持っていた荷物を放り出し、ベッドにそのままダイブした。 今日は峰さんが用事があってあの家には行けないと連絡をもらっていたから、祥悟が気に入りそうな洋食店のテイクアウトを夕飯に買って帰ったのだ。 もう夜の9時をまわっている。 祥悟はきっとお腹を空かせて、自分の帰りを待っているはずだ。 ……いや。祥は待ってなんかいない。今頃、彼はアリサと……。 智也は枕に顔を強く押し当てた。 堪えきれない嗚咽を、枕の中に封じ込める。 何度こんな思いをしたらいいのだろう。 どうして自分は凝りもせずに、祥悟に淡い期待を抱いてしまうのか。 彼から距離を置くと決めたのに。 吹っ切らなければいけないと、自分に言い聞かせたのに。 どうしてこの想いを断ち切ることが出来ないのだろう。 彼を祖父の屋敷に匿って、世間から遠ざけて、自分独りのものにしているような錯覚に、暗い歓びを感じていた。 そんなことはありえないのだ。 怪我が治って謹慎が解けたら、彼はまた外の世界に出て行ってしまうのだから。 あの蜜月は、自分だけが作り上げた幻に過ぎない。 「もう無理だ。限界だよ、祥……」 情けない、みっともない涙声の自分の呟きに、抑えていた涙が一気に溢れ出した。 「俺は……っ、君の、兄貴じゃない。好きなんだ。愛しているんだよ、君をっ」 アリサをあそこに呼び出して、どんな話し合いをしていたのかは知らない。 でもせめて、彼女をあそこに呼ぶとひと言、自分に連絡して欲しかった。 あんな風に唐突に、見せつけられたくなかった。心の準備が必要だったのだ。 ……わかっている。祥悟は悪くない。 わかっているから、やりきれない。 床に放り出した上着のポケットの中から、携帯電話の着信音が響く。 あの受信音は祥悟だ。 智也は少しだけ顔をあげ、涙に濡れた目で上着を見つめた。 「なあ、智也。遅いんだけど? おまえ今日、こっち来るって言ったよね?」 受話器の向こうから聴こえてくるだろう祥悟の声。まるで本当に聴いているみたいに、鮮やかに頭の中に再現される。 智也は呻きそうになる声を押し殺し、鳴り続ける着信音に背を向けた。 「……無理だ。ごめん、祥。ごめんね」 一旦切れたベルが、再び鳴り始める。 智也は布団を頭から被って、彼からの呼び出しを拒絶し続けた。

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