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第125話 硝子越しの想い5

躊躇いながら瑞希が話してくれた内容は、智也にはまったくの予想外だった。 まさか自分の身内に、そんな悩みを抱えた人間がいたなんて……。 「それで、その大学生とは、もう会ってないのかい?」 「うん。会わない。会うわけない。あんな酷いこと……したんだし」 心につかえていたものを全て吐き出して、瑞希は少し放心しているようだった。目に涙を浮かべて、ぼんやりとカップを見つめている。 「お母さんに、俺から話してみようか?」 智也が思い切ってそう言うと、瑞希はバッと顔をあげてこちらを見て、ぶるぶると激しく首を振った。 「無理。ダメだよ、そんなこと。母さんが聞いてくれるわけない。それに僕、智くんにそんなこと、して欲しくない」 話を聞くだけだと自分から予防線を張りはしたが、聞いてみれば内容が内容だけに、この従弟の力になってあげたい気もするのだ。 あの叔母が、自分の話にどこまで耳を傾けてくれるかは疑問だが。 「ねえ、智くん。智くんは僕のこと……軽蔑しない?」 「え?」 「その……そういうやつだって、こと」 「まさか。軽蔑なんかするわけないよ」 すかさず言葉を返すと、瑞希はほっとしたように頬を緩めた。その拍子に、目に溜まっていた涙がぽろりと頬を伝う。智也は手を伸ばし、そっとそれを指先で拭った。 自分にさっきの話をするのは、さぞかし勇気が要っただろう。途中何度か、自分も同じだから気持ちはわかる、そう言ってあげたくなった。 でも言えなかったのだ。 今まで誰にも打ち明けていない自分の秘密を、自分より年下の瑞希に簡単に告白する勇気はなかった。 智也はちらっと壁の時計を見て 「瑞希くん。君、今日は他に予定があるかい?」 「ううん。何も」 「じゃあちょっと、俺に付き合ってくれる?」 瑞希は手の甲で涙を拭いながら、首を傾げた。 「付き合う? どっか行くの?」 「うん。ちょっとね、約束している相手がいるんだ」 「え。じゃあ僕、お邪魔だよね? 一緒になんて……ここに居させてもらえたら僕……」 途端に眉を下げ尻込みした表情になる瑞希に、智也は微笑むと 「いや。君が一緒に行ってくれた方がいいかもしれない。うん。その方が、いいかな……」 今の心理状態で、祥悟と2人きりで会うのはダメな気がした。第3者の瑞希がいてくれれば、自分の感情を剥き出しにするような事態はおそらく避けられる。 狡い考えなのは分かっていたが、自分の気持ちをコントロールする自信がない今は、それが1番いいような気がしたのだ。

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