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第145話 硝子越しの想い22
「本当にいいんだよ。俺はソファーで。お客さんの君を、ここで寝かせるわけにはいかないからね」
「でも智くん。僕1人であんな広い寝室とベッド……占領するのはやっぱり嫌だよ」
智也は渋る瑞希の背中を押しながら、寝室に向かった。
「はい、瑞希くん。もうこの話はおしまいだよ。君がここに一緒に住むようになるなら、奥の物置になってる部屋を片付けるからね。とりあえずそれまでは、君は寝室、俺はソファー」
瑞希はまだ納得がいかないのか、寝室のドアの前で立ち止まると、くるっと振り返った。ぷくっとふくらました頬は、風呂上がりでツヤツヤしていて、自分と瑞希の年齢差を改めて感じてしまう。
「なんだい? その顔」
「一緒にベッドで寝ればいいじゃん。智くんとこのベッド、結構広いし」
「ふふ。君もしつこいなぁ。さっき言っただろう? いくら広めでも、野郎2人で寝るのはキツイよ。さ、早く入って?」
瑞希はまだ膨れっ面のまま首を竦めると、渋々ドアを開けて室内に入った。
「君が風呂に入ってる間に、シーツは一応新しいのに替えておいたから。多少、俺の匂いがするかもしれないけど、そこは我慢して」
瑞希はくんくんと鼻をうごめかせてみせ
「智くんの匂い、僕、嫌いじゃないもん」
言いながら、ぽすんっとベッドの端に腰をおろした。
「寒かったら、ここに毛布が入ってるから」
「ねえ、智くん。人が人を好きになる時ってね、匂いって……結構重要な要素なんだよ」
智也は、ん?っと首を傾げると、瑞希の隣に1人分スペースを開けて腰をおろした。
「匂いが?」
「うん。異性を好きになる時ってね、自分の遺伝子から出来るだけ遠い相手を、匂いで本能的に嗅ぎ分けてるんだって」
「遺伝子? それはまたすごい話だな」
瑞希はちょっと得意気に笑って、すいっとこちらに身を寄せてきた。避ける暇もなく、瑞希が胸元に顔を埋めてきて
「異性の場合は、自分の遺伝子から遠い相手。でもね、同性の場合は、自分とよく似た遺伝子を嗅ぎ分けてるんだよ」
瑞希は言いながらくんくんと鼻を鳴らしてみせて
「僕と智くんは、きっと遺伝子が近いんだね。智くんの匂い、僕、すごく落ち着くもん」
「んー……まあ、君と俺は従兄弟だからね」
瑞希は胸元から顔をあげ、上目遣いでじっと見上げてきた。大きな瞳が少し揺らめいている。
「僕と亨くんも、遺伝子が近いのかな……。智くんと、祥悟さんも?」
智也は瑞希の目を見下ろしながら、ゆっくりと瞬きをした。
祥悟。
その名前を耳にする度に、胸に甘い痛みが走り抜ける。瑞希を側において、出来るだけ彼からは距離を置こうと決めたのに、さっき風呂に入っている間も、脳裏に浮かぶのは祥悟の顔、そして留守録に入っていた声。
瑞希との行為で無駄に昂ったまま、解消されずに燻っていた身体の熱を、浴室で手早く始末する時も、自分が思い浮かべていたのは、祥悟の姿だった。
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