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第144話 硝子越しの想い21
今朝、瑞季の相談を受けた時、正直どうしてあげたらいいのか戸惑っていた。話を聞きながら、しばらくここに瑞季を泊めてやらなくちゃいけないかもしれない……と少し億劫だった。
自分はもともと、人付き合いが得意なわけでもない。世話好きな性格でもなかったから、昔仲良くしていたとはいえ最近はずっと疎遠だった従兄弟に、あまり深く関わることになるのは気が重かったのだ。
でも、瑞季の人柄に触れ、話をしているうちに、もしかしたらこれはいい機会なのかもしれないと思い始めた。
自分の気持ちを、祥悟から引き離す為の。
祥悟と距離を置く為の。
さっきうっかり抱きかけたせいで、瑞季に対して、ただの親戚という以上の愛着がわいてしまったのもある。もちろん、祥悟に対する想いとは全く違う感情だったが、瑞季のことを、自分のテリトリーに入れても構わないと思えるくらい、愛おしく感じ始めていた。
……いや。もしかしたら……。
このまま瑞季を傍に置いていたら、祥悟に対する想いを忘れられるかもしれない。
瑞季には忘れられない人がいる。自分もまた、祥悟への想いを完全に忘れることは難しいだろう。でも、意外にも側にいることがストレスに感じないこの子と過ごしていたら、独りで思い詰めていく自分の危うさを紛らわせることが出来るかもしれない。
そこまで考えて、智也はふと我に返って苦笑いを噛み締めた。
……打算的だよな……俺は。
自分はこんなにも自分勝手な人間だったのか。これではさっき、思い余って瑞季を祥悟の身代わりに抱こうとしたのと同じことだ。
「さ、瑞季くん。おばさんに電話するよ」
気を取り直して促すと、瑞季はひどく不安そうな顔をした。
「母さん……。智くんの言うこと、ちゃんと聞いてくれるかな……」
「それはまだ分からない。でも……君はおばさんと言い合いになって、家を飛び出してきたんだよね? きっとおばさん、心配しているよ。どのみち今夜は、君をここに泊めるって、おばさんに断っておかないとね」
瑞季は両手で自分の頬を押さえると、はぁ……っと詰めていた息を吐き出し
「うん……。じゃあ智くん。よろしくお願いします」
そう言って、ぴょこんと頭をさげた。
かなり緊張しながら電話してみた瑞季の母親の反応は、意外にもあっさりとしたものだった。
こちらがいろいろと気を揉んで話すよりも先に「智くんの所だったら安心だわ。うちのバカ息子、悪いけど預かってもらえる? 次の休みはいつ? ああ、その日なら私も予定はないから、そっちにお邪魔するわ」
さばさばした男っぽい気性そのままに、さっさと話し合いの日程も決めてしまった。
電話を切った後、智也は拍子抜けした気分で瑞季の顔を見つめた。
「おばさん……。相変わらずだね」
瑞季は嫌そうに顔をくしゃっとさせて
「いっつもそうやって、人の話、全然聞かないんだ、母さん。ほんと……嫌になる」
「ふふ。でもとりあえず、今週末まで君はここに泊まるといいよ。その後のことは、おばさんに会ってから決めよう」
「……うん。智くん。ありがとう」
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