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第143話 硝子越しの想い20
「ああ。ごめんね。ちょっとぼーっとしちゃったかな」
智也は努めて優しい笑みを浮かべた。
瑞季の素直さに肩の力が抜けて、誰にも言えなかった祥悟への思慕を打ち明けることが出来て、正直かなり気持ちが楽になった。
でも……自分の心の奥底に横たわる祥悟への暗い執着心だけは、たとえ瑞季にも知られたくはない。
「智くん……」
瑞季は大きなため息をつくと、胸にこてんっと頭を預けてきた。
「僕……これからどうしよう……」
そうだ。祥悟の件に付き合わせてしまったが、瑞季から受けた相談の結論をまだ出していなかったのだ。
「そのことはね。瑞季くん。俺にちょっと任せてくれる?」
「え……?」
「おばさんに話してみるよ。君をしばらくここに預かりたいって」
瑞季は息を飲み、ガバッと顔をあげた。
「……っいいの? 智くん、でも」
「ああ。そんな顔しないで。今はまだおばさんも混乱してるんだと思う。冷静に頭を冷やす時間が必要なんだよ。君も、おばさんもね。だからしばらく君はここにいて、ここから学校にも通ったらいい。もちろん、君が嫌じゃなかったら……だけどね」
「嫌じゃない! 僕、僕は嬉しい。……でも……ほんとにいいの?智くん。迷惑じゃない?」
不安そうに眉を八の字にする瑞季の頭を、智也はぽんぽんと安心させるように撫でた。
「大丈夫。迷惑なんかじゃないよ。ただ……俺は仕事で出ていることが多いから、おばさんのように、いろいろしてあげられないかもしれないけどね」
瑞季はちょっと泣き笑いの表情を浮かべた。
「平気。僕、自分のことは自分でするから。……あの……あのね、智くん。僕、高校卒業したら大学には行かないんだ。専門学校に通って、調理師免許を取りたいから。母さんはそのことにも反対してて……。でも僕、自分の将来は自分で決めたい。だから、卒業したら家を出て、どこか住み込みのバイトを探すつもりだったんだ」
瑞季の意外な告白に、智也は目を見張った。
「……そう。そうだったんだ。瑞季くん……君は、偉いね。そうか……自分の将来は自分で決めたい……か。だったらそのことも、1度ちゃんとおばさんと話をしなくちゃいけないな」
瑞季は目に涙を溜めて、こくんと頷いた。
「うん……でも……」
「俺で力になれることなら協力するよ。まずはおばさんに電話してみようか。きちんと時間を取ってもらって、話をしないとね」
瑞季はくしゃっと顔を歪めて、抱きついてきた。
「ありがとう……智くん」
胸に顔を擦り寄せて泣き出した瑞季の背中を、智也は優しく何度も撫でた。
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