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第2話

「って、約束したじゃないですかっ」  遥はこれで何度目かになる罵倒を、湊にした。湊はメタルフレームの眼鏡を外して汚れを拭くと、溜め息を吐いた。 「遥くんはまだ十五歳でしょ。無理です」 「なんでっ」と癇癪を起している遥は首にかたい革製の首輪を巻いたオメガで、つい先日はじめてのヒートを迎えた。 「抑制剤も出しておくから、何かあったら連絡してね」  遥の癇癪などどこ吹く風の態度の湊は、アルファだ。からだの弱い遥の主治医をしている。オメガの遥は何かあってからでは遅いので、通院もままならないのだ。  ぷぅと頬を膨らませる遥の頭を、湊は撫でた。 「これからは、今まで以上に気を付けて」  それだけだ。湊はアルファなのに、遥をオメガとして見てくれない。外見が好みではないのだろうか、と鏡を見る。そこに写ったのは、透けるような白い肌の如何にも病弱です、といった看板を背負った姿だった。大きな二重の瞳だったり、すっきりとした鼻梁だったりと、造作は悪くないのだけれど、同年代よりも小柄なからだはどうしようもない。 「先生は僕と番にはなりたくないのかな」  ぽふ、とベッドに倒れ込む。この部屋には湊の名残りを感じさせる何かはない。寂しかった。  それでもヒートの落ち着くまでの一週間程は、大人しくしていた。抑制剤もはじめて飲むもので、効いているのかどうかわからない。  困ったのは母だった。遥のヒートはまだ不規則に起こる上、母は出張で三日程家を空けなくてはいけなくなってしまった。 「どうしようか、遥」  真剣に悩んでいる母には悪いが、遥はこのときだ、と思った。 「湊先生のところにいる」  湊に会いたかった。もしも一日中一緒にいれるなら、遥にも勝機はあるかもしれない。 「でも湊先生はアルファだし、親戚のベータの人の方がいいんじゃない?」  母は万が一の間違いを危惧しているのだろうが、遥はそれを期待している。 「僕、湊先生なら番になってもいいよ」  そう言ったら、怒られた。 「番になりたい」など軽率に言ってはいけないらしい。勿論遥は本気なのだけれど、周囲の大人は誰一人とりあってくれなかった。

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