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第28話 ターゲットリスト

「そこまで」 と賀茂さんが手を叩いてやっと賀茂さんが見てるのを思い出した。 …恥ずかしすぎだろこれ… 俺はとりあえずベッドのカバーを身体に巻き付けて前を隠した。 思い返してみて、あまりにも酷い出来だと自分でもわかる。 「亜巳くん、坂本くん、お疲れ様。批評するのは…シャワーを浴びてからにしようか」 汗やそれ以外の液体で二人ともベタベタだったのでありがたい申し出だ。 「わかりました。坂本くん先どうぞ」 と俺が言うと坂本は 「いいえ!俺に亜巳様を洗わせてください!」 と張り切って言う。 しかし賀茂さんが却下した。 「ダメだ。君が亜巳くんの体を洗うとなれば、洗うだけじゃ済まないだろ?時間が勿体無いから亜巳くんがここでシャワーを浴びて。坂本くんはうちのバスルームを使って」 坂本はしょげて「ちぇ~っ」とうなだれている。 俺はホッとした。 さすがにもう、坂本に身体を撫で回されるのは遠慮したかった。 なにせ体力的にキツい。 女王様ってこんなに疲れるの… 殴って、イカせるだけだろって簡単に考えてたけど甘かった。 相手の様子を見ながら力加減を調整したりするし精神的にもすごく疲れる。 まあ、坂本が前半ふざけてたのもあるけど… 俺と坂本はシャワーを浴びてさっぱりしたところでリビングに集まった。 賀茂さんがハーブティーを入れてくれていた。 カモミールの香りがふわっと漂って、高ぶった神経をリラックスさせてくれる。 「いただきます」 「はぁ…美味しい~」 賀茂さんの紅茶のチョイスはいつも的確だ。 こんなお嫁さんが欲しいな。 いや、俺もうこんなわけわかんない身体じゃお嫁さんもらうのは無理か。 「さて、さっそくだけど今日の出来は…まあ、一言で言うと散々だったね」 「はい…すみません…」 俺はわかってはいたもののがっくりと肩を落とす。 「初めてだからそんなにうまくいくとは思ってなかったけど、ちょっと想像以上に亜巳くんの気が引けすぎだったから坂本くんにもう何度か付き合ってもらわないといけなそうだね」 「はい…。坂本さんごめんね。また手伝ってくれる?」 「もちろんです!!!むしろお願いします!!」 また坂本が大型犬みたいなキラキラした目で見てくる。 はぁ、この人こんな性格だから俺も救われるよ。 「亜巳くん、スタートしたらもうちょっと支配的にならないとね」 「はい。次からは気をつけます」 「元々の素質はあると思うから。君は気が強いしね。あとは慣れだな」 「そうですよ!亜巳様はありのままで最高な存在なので!それを自覚しさえすれば最強の女王様になれますよ!」 「そ、そう?ありがと…」 「賀茂さん、あんまり亜巳様をいじめないで下さいよ。俺がふざけ過ぎたのも悪かったですし」 「そうだな。次からは二人とも気を引き締めてやるように」 はーい。と2人の返事がハモった。 「それはそうと、やっとSMの実践もはじまったことだしモチベーション上げるためにもこれを見ておいてくれ」 そう言って賀茂さんがタブレットを取り出しファイルを開く。 「なんですかこれ?履歴書…?」 一見履歴書のような書類が画面に大写しになっている。 左上に証明写真のようなものが貼り付けられ、その下にプロフィールや経歴が書いてある。 俺は1ページ目のそれをよく見て目を見開いた。 「え、これ…中島…?」 そうだ。俺は賀茂さんからタブレットをひったくって画面をスワイプする。 次のページも、その次のページにも自分の知っている人物の写真と経歴が記されている。 俺は久しぶりに見るその人物たち――しかも知っている顔よりも少し大人になっている――との間にあったことを一瞬で思い出して鳥肌が立ってきた。 俺がタブレットを離して寒気から肘のあたりをさすっていると坂本が大きくて温かい手で肩に触れてきた。 「亜巳様、大丈夫?画面消しますね」 そう言ってタブレットのホームボタンを押して経歴書を見えなくしてくれた。 俺はしばらく声が出なくて、紅茶を両手で抱えて飲んで気持ちを落ち着けようとした。 「亜巳くん、今すぐに見なくてもいいが、いずれそれを全て頭に叩きこむくらいにしてもらわないといけない」 「え…どうして……」 「君がまずはじめに調教する相手だからだ」 「俺が…調教……?」 「そうだ。君はここのリストに乗っている人物たちに酷いことをされた。その復讐をまずは果たすんだ。それを乗り越えて初めて君は前に進める」 「復讐…」 自分がどうして8年も眠っていて、その後女王様にならなければいけなかったのか。 ここ最近聞かされた説明は、祭だの八咫烏だの玉依媛命だのという大昔の説明であって、俺の高校時代とは関係の無い話だった。だから神話やファンタジーとして受け入れられた。 でも、それは背景に過ぎない。 俺が一度死んで蘇った理由は? あいつらに追い詰められたからだ。 ……だからあいつらに鉄槌を下さなければならない。賀茂さんはそう言っていた。

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