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第29話 復讐心とは?
復讐か…
「俺…なんで今まであいつらのことをすっかり忘れていたんだろ」
「きっと嫌な記憶を脳が無意識のうちに思い返さないようにして自衛していたんだろう」
「そっか…」
「辛いと思うけど、今の君の能力があればあのときのことは全然たいしたことなかったって思えるくらいズタズタにしてやれるからね。うちのお客さんは警察関係者も多いから」
つまり、多少手荒くしても大丈夫だよと言っている。
賀茂さん、お上品な顔してたまにエゲツない事言うよな。
「わかりました。俺、頑張ります」
「うん。今日はちょっと疲れてるからね。すまなかった、私がタイミングを間違えたようで」
「いいえ、いずれにせよ見ないといけないものでしたから」
「さ、お腹空いただろう。何か簡単なものでも作るよ」
そう言って賀茂さんは立ち上がってキッチンに向かった。
「パスタでいいかな?」
と聞いてくるので勿論ですと答えた。
待っている間、坂本と一緒に坂本の出ている試合を動画サイトで探して見た。
さっきまで俺に喘がされていた男が、ゴリゴリのマッチョな男たちと格闘していた。
「これ、別人みたい」
すごく不思議な感じがした。
坂本は笑って俺の肩に腕を回した。
年も近いし、友達みたいに接してくれて嬉しかった。
なんだかんだ、皆俺に気を遣って優しくしてくれる。
高校時代は散々な目にあったけど、そのおかげでこうしてここに座ってるんだよなと思うと複雑だった。
それからしばらくは週に1~2回坂本と会った。
レッスン室を使うこともあれば、本番の時のためにとホテルに行くこともあった。
倶楽部の客層的に、利用するのはハイグレードなホテルということになる。
ごく普通の高校生だった記憶しかない俺は勿論そんなホテルに用はなかったので、最初は一人で入るだけでも緊張した。
あの後何度か練習をしてコツも掴めたし、坂本はガタイが良すぎて基準にならないけど、どのくらいの力で叩けばいいかなんて事もわかってきた。
スタート後もスイッチが切り替わるみたいに自然に女王様の演技ができるようになるなった。
あとはどういう流れにするかってのはもうその場の雰囲気だし、経験を積まないとわからないと思うからとにかくやってみるしかない。
俺はちょっと自信が付いてきたから、あのリストをもう一度見てみることにした。
1人で見る勇気はなかったから、坂本と練習した後一緒に見た。賀茂さんはその日外出していたから、俺が淹れた下手くそなハーブティーを飲みながら。
タブレットをスワイプしながら見比べる。
中島。井上。仁乃。阿久津。
そして…………小山田。
俺はこのリストに小山田が入っていて驚いた。
だって小山田は俺に直接何もしてきてなかったからだ。
賀茂さんになんで小山田が入ってるのかと聞いたけど「そもそも彼の彼女が原因であんなことになったんだろう?」としか答えなかった。
それはそうだけど、でも調教までするほどか?という疑問が残った。
なんなら、制服を取ってきてくれたり助けられた事もあったし。
俺が食い下がると賀茂さんは「あのいじめを止められたのは小山田だけだった。彼が原因だったんだから。でも、そうしなかった。それだけで充分理由になるだろ」と言った。確かにその通りだった。
なんで中島のこと止めてくれなかったんだよ。
俺はそれを小山田に直接聞いてみたくなった。
俺はタブレットをテーブルに置いた。
「坂本こっち来て。頭撫でていい?」
坂本は頷いてソファを降り俺の足元に膝をついた。
頭を俺の膝に乗せてくる。
大きな犬を撫でるように俺は坂本の髪を梳く。
なんとなく落ち着くから、最近良くこうやってテレビを見たりしている。
坂本も気持ちよさそうにしていた。
犬飼ったこと無いけどこんなかんじかなぁ?
そしてふと根本的なことを思いついた。
「俺、坂本みたいな身体なら良かった。そしたらあんなことされなかったのに…」
「それは絶対ダメです」
即答で却下された。
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