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第30話 最初はお前だ

高校時代の記憶に対する拒絶反応が薄まり、俺は仕事と割り切ってターゲットリストを眺められるようになっていた。 誰から始めても良いと言われた。 じゃあ、まずは手始めに”雑魚”からかな? というわけで、中島の手下ポジションだった元バスケ部井上からやってみることにした。 正直あんまり顔も覚えてなくて、写真を見てこんな奴いたな~くらいだった。 でもこいつ、俺のズボンとパンツ脱がせたからな。 お仕置きだ。 今はサラリーマンで、医療系機器の営業職らしい。 なんか不思議な感じ。 俺は高校生のまま止まってるのに、こいつらはもう社会人なんだ。 「え?坂本さんも来てくれるの?」 「当たり前じゃないですか~!一人で行くつもりだったの?」 「え、うん…そういうものかと…」 「こいつらみんなガタイいいじゃないですか。こんな危ない奴のところに亜巳様一人で行かせるわけないでしょう!」 「え…ああそっか」 「最終的には亜巳様の下僕になりますけど、今はただの野獣っすからね」 そうなのか。 「じゃあよろしくお願いします」 「はーい!どういう作戦にするか打ち合わせしましょうね!」 井上はただのサラリーマンだったから話は簡単だった。 医療機器関係なので、得意先の病院からまず賀茂さんが協力してくれる医師を探した。 すぐに見つかった。 斎藤さんという40代の医師で、倶楽部Salomeの常連だ。 Salomeは会員制で、完全に紹介制なので一見さんお断りだ。 しかも、紹介者として新しい客を連れて来るには、一定の期間一定の頻度で利用しているランクの高い会員でないといけない。 斎藤さんはその中で上位クラスのお客さんだった。 「仕事」に協力してもらうには、信用の置ける上位クラスの客でないとならない。 協力はしてもらっても、他言無用は勿論のこと、理由を聞くのもNGだ。 斎藤さんは快く協力してくれた。 打ち合わせのため俺と賀茂さんが事前に出向いたが、協力の対価は次回斎藤さんが利用する際に俺が思いっきり蹴って踏むことでお願いしたいと言われた。 見た目はいかにも優しそうな内科医という印象だったので、出された条件に吹き出しかけた。 そうだよな…常連さんだもんな。 というわけで、斎藤さんは医療機器を病院に導入するからその代り一杯付き合えと指定の日に井上を誘ってくれた。 まずは普通の居酒屋で飲み、二次会と称してホテルに誘導してくれる約束だ。

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