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第31話 井上【職業:営業職、下僕←NEW!】
当日何か手違いなどがあれば連絡を入れてもらう予定だったが、何も無く指定の時間になった。
斎藤さんには、井上をホテルのバーに連れてくるようにお願いしてある。
そして、俺と坂本は事前にホテル入りし待機。
斎藤さんから入店の合図が来たら坂本は部屋に残し、俺がバーに向かう。
そして、眼力で操って部屋に誘い込む。
今の俺ではあまり難しいことは指示できないが、誘惑のフェロモンを出して部屋に連れ込むくらいなら可能だ。
小型マイクを身に着けていて坂本が聞いているので、何か異変があればすぐに駆けつけてくれる。
それでも、はじめての経験で緊張する。
スマホが点灯し、斎藤さんから合図が来た。
俺は坂本と頷きあった。
そして部屋を出る。
部屋は19階で、バーは1階だ。
エレベーターで降りる。
心臓が高鳴る。復讐をする期待もあるし、うまくいくのかという不安もある。
エレベーターを降りると深呼吸し、女王様モードに気持ちを切り替えた。
バーは広いエントランスホールの奥にある。
店員に声を掛けられ、連れがいると言って中に入る。
未成年に見えるだろう俺だが、店員にも目で少し暗示をかけて素通りさせた。
大丈夫、うまくいってる。
カウンター席に斎藤さんと井上がいた。
俺は生唾を飲み込んだ。
斎藤さんがこちらに気づいて黙礼する。
それを見て、井上がこちらを振り返った。
一瞬誰かわからずにいたようだが、次第に記憶が蘇ったのだろう。
目を見開いて固まっている。
それはそうだろう。
8年前死んだはずの同級生――自分がいじめていた――がそのままの姿で現れたのだから。
「久しぶり」
そう言って微笑む。
「…お前…まさかそんなはずは…」
呆然として、頭が働いていない。これなら暗示もかけやすい。
眼に力を込めて見つめる。
「こっちに来て」
俺が井上の目を見たまま1~2歩後ずさると、井上は自分の意志とは無関係にスツールから腰を上げ、俺のあとを追ってきた。
これでいい。
俺は踵を返して店を出た。井上も、後に着いてきた。
斎藤さんとはここで解散だ。
フロント横のエレベーターに乗り19階をのボタンを押す。
無言で部屋まで進み、ドアを開ける。
井上を先に入らせる。
スイートルームはクラシカルなヨーロピアンスタイルの内装だった。
濃い青色の絨毯に、ダマスク織の3名掛けのソファ。
一人がけのソファが2つとローテーブル。
窓からは夜景がきれいに見える。
奥に寝室が控えている。
中にいた坂本が出迎えた。
無表情ではあったが、俺が無事井上を連れて戻ってほってしているようだ。
「初めまして」
坂本がそう言うと井上はハッと我に帰った。
「えっ、さ、坂本…チャンピオンの??!本物!?うわ!デケェ…」
そうか。坂本は有名な格闘家だから知ってる人は知ってるんだ。
「え…?ここは??」
暗示がかかったまま部屋に来たので記憶が曖昧なのだろう。きょろきょろと辺りを見回している。
「そんなところに突っ立ってないで早く中に入ってよ」
部屋に入ったところで坂本を見つけて立ち尽くしていた井上を俺は後ろから急かした。
「ひっ!!だ、大門!?」
「幽霊でも見るような目をやめてくれる?ちゃんと生きてるから」
「あ…あ……なんで…っ」
井上は俺の姿を見ただけでかなり怯えていた。
坂本さんも俺もまだ普通の服装だ。でもすぐに始められるように中にコスチュームを仕込んでいる。
「坂本、始めようか」
「はい、かしこまりました」
井上はパニック状態だ。8年前死んだはずの同級生が人気格闘家となんの繋がりが?と混乱している。
取り敢えずまずは井上を拘束することだ。
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