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第1話 水曜日の情事
僕が開いているクリニックは水曜が休診日だ。他の職員は休みで、僕だけがここに来ている。
この日は普段の診察室は使わない。
クリニックに併設された、僕と極親しいプライベートな患者を診るための空間になっていた。
職員は誰も踏み入れたことがない。
30畳ほどのフラットな室内は、患者をリラックスさせるために…ではなく完全に僕の趣味により全体をペールグレーで揃えて、ポイントにイエローのファブリックを添えてあった。
部屋に入ると目を惹くのは、キングサイズのベッドだろう。グレーのカバーに、白とイエローの枕が2つずつ積んである。
カウンセリングの患者を診るための部屋としては、いささか不自然なように見えた。
ベッドの横、奥まった大きな窓の手前には、応接用のテーブルセットが据えられていた。患者との対話の時にはここを使う。だが、ここに座る時間は、そう長くはない。
すぐにベッドに行くからだ。
ベッドは、カウンセリングの後で僕と患者が睦み合うために必要な家具だった。
そう、水曜日は選ばれた秘密の患者たちが僕とセックスする日だから。
「ん…ああっはぁ、はぁ…う…ん!」
僕は裸の男に跨って腰を揺すっていた。
顎を上げたまま薄目を開けると天井のファンがゆっくり回転するのが見える。
「あ、ああ、ああっ……」
「良い眺め。先生綺麗だよ…動いて欲しい?」
ベッドに寝たまま僕に乗り上げられた男がそう言う。両手で腰をさわそわと撫でられる。
「うん、…あ、あ…はやく、動いてぇ」
たまらずそう言うと男は腰をがっちり掴むと下から激しく突き上げてきた。
焦らされるのは好きじゃない。さっさと動いてイかせてほしかった。
「ふぅ、はぁ、はぁ、どう?こんなかんじ?」
「いい、そこもっと!」
喋ってないでしっかり腰振ってくれよと思いながら僕は自分で良いところに当たるように腰を動かす。
「ん、ん、ん!イキそう…」
「先生、先生!…俺も良い…!」
そう言うと男は興奮し切った様子でガツガツ突いてくる。はじめからこうしてよ。
「ああ!だめ!もうイクっ!!」
ある程度性欲を発散させて身体が楽になったら男には帰ってもらう。セックスの後にだらだら一緒にいる趣味はない。
今日のはあまり相性が良いとは言えない相手だったがそれでも1週間は持つだろう。
あの男はまた会いたそうにしていたが、もう水曜日に予約を取らせることはないだろう。リストから名前を消す。
来週は…もう少し楽しませてくれる相手としたい。
「いつまでこんなこと続けないといけないんだろう」
考えても仕方がないので僕はベッドで本を読みながら少しだけ眠ることにした。
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