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第13話 教訓
「静音、本当に悪かった。俺があんな奴だと見抜けなかったばっかりに…」
「もう大丈夫だからそんなに謝らないで。ね?忘れようよ」
「二度とこんなこと繰り返さないようにこれからは素性を調べるのを徹底するよ」
どうやらあの男は普段とは違う形でリストに紛れ込んだ相手だったらしい。
本来、僕の相手は良家の次男以下の男の中から選ばれていたが、彼は一般家庭の教師だった。
僕と一度寝た御曹司の中に、僕を気に入って友人にも抱かせようとした男がいたのだ。
それ以来、初対面でいきなり寝るのはやめた。
一度顔を合わせてから、僕が気に入った人間だけもう一度約束を取り付けベッドへ行くという方式を採るようになった。
手間はかかるが、またあんなことがあってはたまらない。
これ以来僕は――というか健斗が――相手探しには慎重になった。
最初に抱かれた上野にしろ、その次に会った名取にしろ、たまたま良い人間だっただけだ。
「男を信用しない」これを早い段階で叩き込まれたのはかえって良かったのかも知れない。
僕はその後は問題なく卒業試験に合格して医師国家試験も通った。
大学を卒業後は実家から通える大学病院に研修医として勤め、その後は精神科を中心とした病院で専門医になるため専攻医研修を3年間受けた。
そしてその後クリニックを開業したとき僕は31歳になっていた。
クリニックを開業するにあたって、父が所有していた古い洋館をリノベーションして使わせてもらった。
部屋数は充分にあって、そこに住むことも出来たけど僕はそこでずっと過ごすのが嫌だったからマンションを別に借りて暮らすことにした。
父は僕が実家を出ていくのなら何でも良かったらしく、いくらでも金を出してくれた。
なんだかんだで僕を見捨てずに育ててくれたことに感謝している。
病気持ちの身で、無事にクリニックを持てるようにまでなったのだ。
高校の時に自暴自棄になって勉強をやめていたらどうなっていただろうか?
ただ男に抱かれることを求め、死ぬまで性欲に隷属する人間になっていたかもしれないと思うとゾッとした。
健ちゃんが最初に教えてくれたように、僕に恋人が出来て相手も僕を好きになってくれたとしたら…
その人がずっと一緒にいてくれたら…そうすれば今よりもっと楽に生きられるのかな。
母は苦しんで死んだって思っていたけど、それもどうかわからないと最近思うようになった。父さんは母さんを愛していたし、それなら母さんは父さんと居られて幸せだったってことかな。
答えの出ないことをとりとめもなく考えていた。
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