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第34話 心配
「先生、最近元気がないですね。元気出して下さいね」
看護師の藤岡さんに言われてしまった。
そしてその後びっくりすることを言われた。
「気を悪くしたらすみませんけど、先生の好きな人って東郷さんですよね?」
「えっなんで…」
「何度かいらしてるのを見てわかっちゃいました」
「そ…そう」
僕はふと関係がないことを聞いてみたくなった。
「藤岡さんはお母さんと仲良い?」
「え?ええ、はい」
「そうだよね。僕は…僕の母は高校の時亡くなって」
「あら、すみません知らなくて」
「いえ、いいんです。母は遺伝性の病気で、僕に移ったのでそれを気に病んでいて…何も親孝行できないまま逝ってしまって…」
「そうだったんですね」
「藤岡さん、介護で大変なのにうちでもしっかり働いてくれてありがとう」
「こちらこそ、雇って頂いて時間の融通も利かせてくださってありがとうございます。」
「僕なんてさ、世の中の役にも立てずこんなところで医者やってるのが関の山で…僕が出来ないせいで弟が会社を継ぐことになって仕事してくれてる。僕は病気のこともあったりで家には迷惑かけっぱなしだったし…こんな…はは、ごめんね。藤岡さんにこんな愚痴言ってどうすんだよ」
藤岡さんは優しく笑った。
「先生…周りの方々が優秀すぎて基準が狂ってますよ」
「はい?」
「あの、東郷さんとか弟さんとか、大企業のトップじゃないですか。そんな方なんて普通周りに居ないです。比べようとも思わないし。うちの彼氏に今度会ってみます?仕事辞めちゃって今フリーターですよ。でも楽しくやってます。医師免許持ってクリニックまで開業してて”こんなこと”なんて言わないで下さい。私、ここで雇ってもらってるんですよ?潰れたら生活に困ります。生意気ですけど先生はもっと自分が欲しいものを欲しいって言っても良いんじゃないでしょうか」
「藤岡さん…」
藤岡さんはハッとして居住まいを正す。
「あ、私何言ってるんでしょう。とにかく…先生が最近元気なくて心配なんです。他のスタッフも。本当に失礼なこと言ってすみませんでした。あの、これで上がらせてもらいます…失礼しました。」
僕はスタッフにまで心配されてたのか…
情けないけど、本気で心配してくれる人が身近にいることの幸せも感じた。
欲しいもの、か…
僕はこのまま六条さんのところに居ていいのかな。
六条さんは僕が必要みたいだ。
2人の息子さんも…何か変な感じだけど、僕が居た方が良さそうな感じ?
相変わらずいつも縋るような目で見てくる。
父さんが望んでいるなら、養子縁組してもいいと思った。
でも、本当に行きたい?
本当に欲しいものは何?
東郷が麗華さんとの婚約を破棄した…
そんなこと僕に言われてもどうすれば良いの?
僕のせいで2人の関係が壊れちゃったの?
でも僕はこの気持を諦めようとして六条さんと…
「はぁ」
いくら考えても、結局なにか変わるわけでもないんだ…
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