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瓢箪から駒2

 それにしても紫月が冰にわざわざそんなことを教えるだろうか。彼だってあの時の状況はよくよく把握しているだろうし、興味本位で女の胸を揉んだわけじゃないということくらい承知だろう。紫月の性格からしても、冰にいちいち暴露するなど、そんな意地の悪いようなことをするとも思えない。だが、ではどこでそんなことを聞き付けてきたというのだろう――氷川は弁明も言い訳もできないままで、唖然としたように目の前の恋人を見つめながら硬直してしまった。 「その様子じゃ、やっぱホントに揉んだんだな、美友さんの胸……」 「や……その、まあ……揉んだには違い……ねえけど……な?」  氷川はタジタジとしながら上目遣いで冰を見上げた。 「つかよ……お前、どこで……ンなこと聞いてきたわけ?」 「ん、道場で」 「……! てことは、やっぱ一之宮がお前にチクったってわけか!?」 「違うよ」 「違うって……。んじゃ、誰から聞いたんだよ」 「師匠がさ、話してんのが聞こえちゃって……」 「師匠だ!?」  師匠というのは一之宮道場の師範である、いわば紫月の父親だ。氷川も冰も道場に通うようになってからそう呼んでいるのだ。 「昨日、稽古の後でシャワー室から出てきたらさ。師匠が電話で話してんのが聞こえたんだ。多分、相手は鐘崎君のお父さんだと思う。日本に帰って来る日程がどうとかって話してたから」  紫月の父親と鐘崎の父親は相思相愛の恋人同士だ。知り合ったのはかれこれ十数年前だが、仕事や育児の関係で二人は香港と日本の地で離れて暮らすことを選んだということだった。その鐘崎の父親が永き準備を経て、紫月の父親の待つ日本へと帰ってくる決意を固めたというのだ。  彼らの関係を知った時は酷く驚いたものだが、氷川にとっても冰にとっても、今や鐘崎と紫月、そして二人の父親たちとも親交が深まりつつあり、近しく大切に思える間柄に違いはない。同性同士で愛し合っているという点からしても、大先輩といえる父親たちの恋愛を応援したいと、素直にそう思っているのだ。  それはいいとして、なぜそこから”美友の胸を揉んだの何だの”という話向きになるわけだろう。経緯がさっぱり掴めずに、氷川はますます困惑させられてしまった。

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