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ご近所さん5
まあ、僚一にしてみれば、源次郎や家令の皆は既に家族のような感覚でいるし、彼らがそれでいいというのならこの地で共に生きていきたいという思いがある。家令たちの方も、誰一人ここを辞めて出て行きたいなどと言い出す者もいなかった。
「すまないな、源さん。いろいろ気を遣わせちまって」
僚一が労えば、源次郎はとんでもないといったように首を振っては頭を下げた。
「私共の方こそ、変わらずにお邸でお世話になってしまって恐縮な限りです。……差し出がましいかとも思うのですが、料理人たちも皆様に少しでも喜んでいただければと常々申しているんですよ」
確かにこれまで腕に撚りをかけていた御三どんすらなくなってしまったわけだから、彼らにとっては手持ち無沙汰という思いもあるのだろう。少しでも役に立ちたいという彼らなりの心遣いなのだ。
そんな思いを汲んでか、僚一が、とある提案を口にした。
「そうだ。じゃあ、週末に飯会でもするか! 白夜と冰や、それに奴らのところの執事の真田 さんだったか? 彼らにも声を掛けて、うちの自慢の中華料理を振る舞うってのはどうだ?」
「親父にしちゃ気の利いた提案じゃねえか。それじゃ、粟津 たちも呼ぼうか。なぁ、紫月?」
「お! いいね! つか、またあの旨え中華料理を食えると思うと超嬉しいんですけど――!」
遼二も乗り気で、紫月も『バンザーイ!』と両手を上げて喜ぶ。すると、続いて飛燕がこう付け加えた。
「それじゃ、ご近所のカンさんや立原君、高杉さんご夫妻にも来ていただければ嬉しいな」
その言葉に息を呑んだのは僚一である。驚きつつも、思わず瞳を細めてしまった程だった。飛燕のこうした細やかであたたかい気配りが、心から嬉しく思えたからだ。しかもそれが作り物ではなく、当たり前のように出る自然さが堪らなく愛しいのだ。
先の香港で紫月が范美友 に見せたやさしい気遣いにも感心したものだが、彼のそういった性質は、やはりこの飛燕のものを受け継いだのだろうと思えて、胸に熱いものがこみ上げる。そんな気持ちのままに、僚一は元気な声で言った。
「そうだな、カンさんたちも喜んでくれるだろう。じゃ、今週末は皆んなで宴会だ! 源さん、メニューは任せたぜ!」
「かしこまりました! 料理人たちも大喜びで張り切りますですよ!」
「そうと決まれば、早速氷川たちに電話すっか! な、遼……、剛 と京 も呼んでい?」
「勿論だぜ! よし、それじゃ俺は粟津に架けるとするか」
紫月と遼二がスマートフォンを片手に、仲睦まじく顔を付き合わせている。
源次郎のはつらつとした笑顔、息子たちの手放しで浮かれる仕草、そして片や頼り甲斐があり、片や穏やかで心根のあたたかい恋人のやさしい微笑み――。
愛しい者たちに囲まれながら、僚一と飛燕は今この時の幸せな現実を噛み締め合う、そんな秋の晩だった。
『ご近所さん』- FIN -
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