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ご近所さん4
「バッカ、泣くやつがあるか」
「ん、すまねえ……」
こんなにも深い心で、ずっと僚一は自分たちのことを気に掛けていてくれたのだ。もはや嬉しいなどという言葉では言い表せない程に、飛燕は感動に打ち震えてやまなかった。
「……ッ……のさ、好きだぜ、僚一……お前ンこと……俺、すげえ……好……ッ」
「ああ、俺もだ。もう二度とお前を放しゃしねえよ……!」
「――ん、ん! 俺、本当に……この世の誰よりも幸せ者だ……!」
あふれる愛しさのままにヒシと寄り添う二人を、秋のやわらかなつるべ落としの陽が包み込んでいた。
◇ ◇ ◇
その後、二人で作ったハンバーグの夕食を帰宅した息子たちと共に味わった。家族四人で囲む食卓はワイのワイのと賑やかで、幸せに満ち満ちている。十数年の月日、こんなひと時をどれほど夢に描いたことだろうか。僚一も飛燕も、そして無論のこと息子である遼二と紫月も同様であろう、幸せに流れるこの時間を大切に感じていたのだった。
「お! 誰か来た?」
玄関の呼び鈴の音に、紫月が身軽に席を立って出迎える。
「こんばんはー。お邪魔致します」
食事が終わる頃合いを見計らったようにして、源次郎 が訪ねて来た。食後のデザートにと、秋の新物である栗を使ったケーキを焼いてきてくれたというのだ。甘い物に目がない紫月は両手放しで喜び、源次郎を含めて五人賑やかにティータイムと相成ったのだった。
飛燕と紫月の自宅であるこの道場と、転入後に遼二が住んでいた例の立体映像が映し出される地下室があるマンション――どちらに住まおうかと家族間で談義した結果、結局は皆で一緒に道場に住むこととなった。まあ、僚一は既に一生涯の生活に困らないだけの蓄えがあるし、仕事らしきも当面はない。だが、飛燕は道場を畳むわけにはいかないし、それなら皆で飛燕を手伝いながら道場で暮らすのが良かろうということになったわけだ。
そんな経緯だったが、僚一と遼二が道場で暮らすようになってからも、源次郎らは変わらずに例の地下室がある僚一所有のマンションに住んでいた。無論、これまで遼二のドデカい中華弁当を作ってくれていた料理人をはじめとする家令たちも一緒である。そちらの住まいには、遼二と紫月がたまに泊まりに行ったりもしたいらしいし、何より学園へ持って行く弁当も変わらずに料理人が作ってくれている。ただ、今までのように付きっきりで遼二の世話を焼くという必要がなくなってしまったのも事実で、源次郎らにしてみれば仕事もせずに報酬だけを受けるのは居たたまれない感があるのだろう。だから何かにつけて、様々こうして気に掛けてくれるわけなのだ。
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