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第2話

 白いカーテンと、白い天井と、白い壁でできた、とにかく真白な部屋に通された。  小さいときから病気がちだった。発育も悪かったので、十歳のときに検査を勧められた。結果、オメガ性だとわかったとき、母は運が悪かったと泣いた。  十歳の僕はというと、いちばん最初に思ったのは、「みなと先生とつがいになれる」だった。  だから早速湊先生に告白した。 「先生、大きくなったら僕とつがいになって」  背の高い先生はちょっと困った顔をして、僕の頭を撫でて、背の低い僕に目線をそろえてくれた。 「大きくなったら、ね」  湊先生は背が高く、メタルフレームの眼鏡をかけた柔和な顔の先生で、アルファ性だ。でも僕のオメガ性が判明したとき、主治医を変える話が立ち上がったらしい。一度後任のベータ性の先生が挨拶に来たけれど、僕が全く懐かなかったので、仕方なく湊先生が継続となった。その代わり、僕の細首にはかたい革製の首輪が嵌められた。それから五年、湊先生と会ってからだと八年、僕の主治医は湊先生のままだ。 「大きくなったら湊先生と番になるの」 「大きくなったら、ね」 「って、約束したじゃないですかっ」  僕は朝から熱っぽく倦怠感を感じるからだをベッドから起こすと、で全力を絞って、診察に来てくれた湊先生に枕を投げつけた。枕は湊先生の胸にぽす、と当たって、床に落ちた。湊先生はカーペットの上に落ちた枕を拾ってくれると、僕に手渡した。それからメタルフレームの眼鏡を外してレンズを白衣の裾で拭いた。 「遥くんはまだ十五歳でしょ。無理です」 「なんでっ」  僕は癇癪を起こすけれど、言葉にちからが入らない。僕は今朝、はじめてのヒートを迎えていた。風邪をひいたときのように怠く、何をするのもままならない。 「今回から抑制剤も出しておくから、何かあったら連絡してね」  僕の癇癪などどこ吹く風といったふうの湊先生に、本当に僕からフェロモンが出ているのか疑問に思う。  湊先生には朝、母が連絡を入れてくれた。ヒートを起こしたオメガ性の僕を通院させることには、途轍もないリスクが伴う。 「先生、冷たいっ」  ぷぅと頬を膨らませる僕の頭を、湊先生は撫でてくれた。 「これからは、今まで以上に気を付けて」  それだけ言って、僕の部屋から出て行ってしまった。滞在時間は五分あるだろうか。ぱたん、と閉まる扉に僕はもう一度枕を投げた。「先生のばかっ」  湊先生はアルファ性なのに、僕をオメガとして見てくれない。外見が魅力的でないのだろうか。枕を拾いにいくついでに鏡を見た。そこに写ったのは、透けるような白い肌の如何にも病弱です、といった看板を背負った姿だった。大きな二重の瞳だったり、すっきりとした鼻梁だったりと、造作は悪くないのだけれど、同年代よりも小柄なからだはどうしようもない。 「先生は僕と番にはなりたくないのかな」  枕を抱えて、ぽふ、とベッドに倒れ込んだ。部屋の中には湊先生の残り香すらなくて、心に穴が空いたように寂しい。  それでもヒートの落ち着くまでの一週間程は、大人しくしていた。抑制剤もはじめて飲むもので、効いているのかどうかわからない。  

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