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第37話
恥ずかしいことに、そのあとの僕はろくに立てなかった。湊先生に抱きかかえられて、お風呂に入れてもらった。久し振りの長湯にのぼせてしまいそうになったけれど、何とか立てるところまでは回復した。
ふらふらとしながらさっきまで着ていた服に袖を通す。そして今は、湊先生にドライヤーで髪を乾かしてもらっている。
「先生、もういいよ」
髪はあらかた乾いてきた。それよりも背中と湊先生の間に隙間がある方がいやだ。僕のヒートはまだ終わっていない。背後でドライヤーの電源を切る音がすると、思わず期待の籠もった目で湊先生を見てしまう。
先生は苦笑して、「ちょっと待っていて」とドライヤーを片付けてくる。僕よりもドライヤーの方を優先することに、ドライヤーに対して嫉妬してしまう。しばらくしてリビングの床にクッションを敷いた湊先生が、「おいで」と言ってくれるまで、僕はそわそわしていた。
僕は遠慮なく湊先生の脚の間に収まる。背中に先生の気配を感じて、お腹には先生の腕が回されて、ようやく満足する。
「ねえ、先生、」と僕は口を開いた。
「運命の番って、どうやって見つけるの?」
チャンスはほとんど一回しかないのに、どうやって選べばいいんだろう。
僕はもう運命の番を見つけているのか、これから見つかるのか、どうしたら間違えずに選べるのか。
また僕のうなじに鼻先を押しつけていた湊先生は、少し考えてから「わからないね」と答えた。湊先生でもわからないものを、僕は正しく選べているだろうか。
「じゃあ、本当に好きな人と運命の番は別かもしれないの?」
ぷくぅと頬を膨らませる。もしそうだとしたら、世界は残酷だ。
背後で湊先生は小さく笑う。「それも、僕にはわからないよ」
湊先生の指が、膨らんだ僕の頬をつついた。
「そうしたら、僕の『本当に好きな人』は湊先生だから、先生、キスして」
以前湊先生にキスをねだったら、先生は「それは、本当に好きな人としなさい」と言った。それを僕も湊先生も忘れていない。そして今日、僕は先生から「好き」をもぎとった。
それは先生も自覚があるらしい。
「遥くんは強引だね」と苦笑交じりに言ってから、「遥くん、こっち向いて」
呼ばれた方に顔を向けると、顎を掴まれた。湊先生の顔がとても近くにある。ハッとしたときには唇に温かくて柔らかなものが触れていた。
あ、今キスされたのだ、と気が付いたときにはもう湊先生の顔は離れていた。
「はい、しました」
澄まして言う湊先生はずるい。
僕は顔を赤くする。キスがこんなに気持ちいいものだなんて、知らなかった。
「待ってっ。もう一回っ」
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