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第8話

 おにぎりとインスタントの味噌汁で腹が満たされると、再び眠気が襲ってきた。  休みの日まで朝からせかせかと動く気もない晴人は再びベッドに寝転がる。  カーテンの隙間から侵入する朝日から逃れるように顔を枕に埋めれば、すぐに寝入ることができた。  2度目の目覚めは、頭こそ二日酔いのような鈍痛がなくなりスッキリしていたが清々しさとはかけ離れていた。  携帯で現在時刻を確認してみると11:07と微妙な数字が表示されている。  休みなのだからこのまま布団の住人になるのもありでは無いかとすら思ったが、朝方に見た冷蔵庫の惨状を思い出し、ベッドのから這い出た。  カーテンを開ければ空には薄雲がかかっていた。  テレビで天気予報を見ようにも日曜のこの時間帯はどこの放送局もバライティー番組しかやっていないので、とりあえずアプリで今日の天気予報を確認した。  1日通して曇りマークはついているが、降水確率は40%とこの時期にしてはそれほど高くない。  晴人は洗面所で歯磨きと洗顔、目立つ寝癖だけ直すと、朝方コンビニから帰ってきたあとソファに脱ぎ捨てた黒いスキニーパンツとサマーカーディガンを着る。  ベルトポーチには財布と携帯だけ入れて玄関を出た。  アパートから出てすぐの通りは、休日と言う事もあってそこそこの往来があった。  晴人は予想外の人通りの多さに気が滅入ってしまい、一瞬時間をずらして出かけることを考えたが、また空腹時に気だるい体を引きずって出かける方が億劫だと自分に言い聞かせて道の端をつかつかと歩を進めた。  晴人の住んでるアパートから1番近いスーパーは徒歩8分の所にあるが、近くには飲食店が複数店舗あるせいでアパートの前の通りよりはるかに多い。  普段より時間をかけてようやくスーパーにたどり着いたところで、晴人は今1番……いや、金輪際顔を合わせたくもなかった人物と鉢合わせしまった。 「……最悪」 (それはこっちのセリフだ……)  植原京子ーー。  まさか彼女とも生活圏が被っているなとど想像もしてなかった晴人はいよいよ引越しも視野に入れるべきかと考える。  高校は同じだったが、出身中学が違ったことと今まで1度も遭遇したことがなかったので完全にあの時の鉢合わせは偶然だと思っていた。  しかし、その予想は間違っていたのだろう。今まではたまたま顔を合わせる機会がなかっただけなのだ。 「挨拶もないわけ?」 「挨拶交わす仲でもないだろ。それに、出会い頭に『最悪』って呟いてたのは聞こえてるからな」  京子は、両手に買い物袋を持っているにも関わらず晴人に突っかかってきた。 「本当、失礼な人」 「ほぼ初対面の相手に暴言吐くよりマシだと思うけどな。用がないなら絡んでこないでさっさと帰れよ」 「言われなくたってそうするわよ。ただ、あなたには言っておくけど、弟を変なことに巻き込まないでくれるかしら」 「また、訳の分からない言いがかりを……」 「昨日、2人でいたじゃない」 「偶然会って飲みに連れてかれただけだよ」  ヒステリックな言いがかりに頭痛がしてくる。 「そう。じゃあ、金輪際弟に付きまとわないでちょうだい」 「それは、お宅の弟さんに言い聞かせてくれ。俺だって強引に連れ回されるのは迷惑だ」  晴人が毅然とした態度で言い返すと、彼女は面白くなさそうにその場から立ち去って行った。  植原京子もとい神代京子との確執は高校時代まで遡る。  何を隠そう、この京子こそが晴人と隆博が別れる原因を作った張本人なのだ。  京子からしてみれば晴人は長年の片想いを横から奪い取った泥棒猫らしいが、晴人にとっては理不尽極まりない言いがかりである。   隆博と別れてから10年近く経つにも関わらず、彼女が晴人に敵意を向けてくるものだから面倒この上ない。  晴人が別れても尚、隆博に未練があり京子と結婚した今でも関わりを持っているならば、彼女の暴言も正当性があると言えるだろうがーー。  隆博が高校を卒業して以来晴人は彼との関係だって全て切っていた。  電話帳から連絡先も消したし、メールや着信履歴、一緒に撮った写真も全部消した。  晴人にはなぜ京子が未だに晴人に対して敵対心を持っているのか理解ができない。  京子とのやり取りを店の出入口付近で行っていた為、晴人は1人好奇の目に晒されていた。  視線から逃れるように店内に入ったものの、落ち着いて買い物ができる訳もなく晴人は手早く買い物を済ませた。 「くそっ……、マヨネーズ買い忘れた」  帰宅して買ってきたものをあらかた冷蔵庫に放り込んでいる途中で買い忘れに気が付き舌打ちをする。  晴人はこのモヤモヤを抱えて今夜も百合斗の店に愚痴でも言いに行こうかとも考えたが、今日が日曜日であることを思い出して顔をしかめた。  遊び相手を見繕うにしても、晴人は基本的にその場で探すことが多かったので連絡先の交換はしてこなかった。そのため、こういうの時にパッと呼び出せる相手はいない。  嗅覚を頼りに相手を選別している晴人にはネットで探すなどということはそもそも頭にないので、晴人はこの溜まったフラストレーションをどう消化するかに頭を悩ませた。  相変わらずストレスを溜めるとそれに比例するかのように性欲が溜まる自分に嫌気がさす。  晴人はとりあえず炊飯器に米だけセットするとソファにどかっと腰を下ろし、テレビの電源を入れた。  

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