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第2章ー第32話 曝け出せ
「なあ、田口?」
ぼんやりと保住に見入っていると、自分の名前が耳に飛び込んできて、はっとした。
「すみません、なんでしょうか?」
「お前、聞いてないな?」
渡辺は目を細めて田口を睨んでいる。
「すみませんでした」
「渡辺さん。田口も結構頑張ったし。疲れているんじゃないっすか」
矢部が間に入ってフォローしてくれた。
「すみません」
「あ~あ。お前も、もっと自分を曝け出さないとダメだぞ!」
今度は田口に絡む気らしい。渡辺は目が据わっていた。酔うとタチが悪いようだ。
「しかし」
「いいか。ここでは、素の自分を曝け出してなんぼだ。それができなくちゃ、まだまだ仲間とは言い切れないな」
「素の自分、ですか?」
「そうそう。素の自分」
谷口も興味津々。
「田口の生い立ちから、なにからすべて聞かせろ」
――そんな……。
田口は心底困った顔をした。
「お、表情に出たぞ。困った顔」
「まじか。いつも同じ顔でなにを考えているか、わからないくせに」
「そういう顔もするのか」
三人にいじられるのは不本意だ。自分を守ることで精いっぱい。保住のことなんか気にしている場合ではなくなったのだ。
三人との攻防を繰り広げているうちに、時間はあっという間にに過ぎて、十一時を回ったところで渡辺がお開きの声を上げた。
「そろそろ帰らないと。怒られる」
「本当だ。明日は金曜日。まだ仕事あるし。係長、帰りましょうか……」
谷口が声をかけると、彼は机に突っ伏して寝入ってしまっていた。
「なんだか静かだと思ったら」
「寝ちゃったのか~……」
隣にいた渡辺は苦笑して、保住の頬をつつく。
「可愛い顔しちゃって」
「本当、本当」
谷口や矢部も苦笑だ。昨日も澤井に付き合っていたようだし、疲れもたまっているに違いない。田口は気の毒そうに保住を見下ろした。
「係長は、若いのに係長で。なのに。みんなに愛されてますね」
田口がそう呟くと、急に矢部は田口のほっぺを両手でつねった。
「イタタタ」
「やっとわかったか。このどんくさい奴め」
「やべしゃん……」
つねられたままでは、うまく話せない。しかし矢部はニヤニヤしている。
「おれたちはな。この年下上司にぞっこんな訳」
彼がそう言うと、渡辺と谷口も苦笑して頷いた。
「こんな細い身体で、柔なタイプなのにさ。局長との間に立ってくれているし」
「結構、好き勝手させてくれて」
「おれたち、守られて仕事しているんだよね。こんなやりやすい部署ないくらいだ」
――確かに。
それは自分もそう思う。しかし――。
「別に。年下だからバカにしたりなんかしない。お前はさ。最初バカにしていただろう?」
「まあ、当然の反応だがな」
「それに、だらしない上司だって好きじゃないだろう?」
矢部はよく見ている。そして他の二人もだ。だが自分にも言い分はある。言われっぱなしでは癪に触った。
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