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第3章ー第38話 入院

「まずったなー」  渡辺は苦い顔だ。突然のことに田口は動揺していた。保住のこともそうだが、澤井の手際の良さ。まったくもって自分は役立たずで用なしだった。 「一体……」 「係長って何事にも無頓着だろう?」 「ええ」 「それが体調管理も然りなんだよ」  谷口が口を挟む。 「人より寒い、暑いの閾値《いきち》が高いらしい」  閾値が高いと言うことは、人より「暑い」「寒い」を感じる能力が鈍いということか。人より感じにくいということは、気がついた時には手遅れ……。 「夏はすぐに熱中症だし、冬は凍傷になる」 「まさか……」 「そのまさかじゃん! 今日の一件」  ――確かに。  あの保住なら頷ける。 「おれたちも暑さにやられてたからな。係長の面倒まで手が回らなかった……」 「一生の不覚」  谷口はため息だ。 「去年も軽く熱中症になったけど、ここまではね……」 「しかし、局長のあの手際のよさは……」  田口の言葉に渡辺は苦笑する。 「あの人、スポーツだかなんだかやっているみたいで、体調悪くなった人の対処が上手いんだよ。それに、近所の熊谷《くまがい》医院の医者と旧友みたいで、なにかあるとそこに行くみたいだ」 「そうなんですね」 「去年も結局、体調悪くなった係長を病院に連れて行くのはあの人の役目。こんなことは日常茶飯事みたいで、澤井局長に任せれば元気になって帰ってくる」  ――。  そうなのだ。澤井、澤井、澤井。保住の周りには彼の話題がいっぱい。  田口は面白くない。自分が対応できたかと言ったら無理だと思う。だけど、なにもできないわけではないじゃないか。保住の容体はどうなっているのだろうか。  熱中症で意識が朦朧としているのは、軽度とは言わない。田口だはスポーツをしていた。熱中症のことはよくわかっているから、とても心配で仕方がなかった。 ***  その日の夕方。佐久間がやってきた。 「局長からで」  一同は緊張する。 「しばらく入院だそうだ。早ければ一週間くらいだが、まだ見通しが立たないらしい。今回は重症だ」  谷口と矢部は、顔を見合わせて不安そうな顔をした。 「しばらくは、おれが直接サポートする。また、日常のものは係長代理の渡辺さんにお願いする」  返答のないみんなの気持ちを察したのか。佐久間は、気を取り直したように手を叩いた。 「保住(ほう)ちゃんが帰ってきた時に、何も進んでないのでは迷惑がかかるぞ! 心配なら働け」  彼の言葉に、渡辺は気を取り直したかのように笑顔を見せた。 「係長がいなくても、大丈夫だと安心させよう!」 「渡辺さん」  渡辺は、みんなを順番に見渡す。 「な、谷口」 「はい!」 「矢部」 「もちろんです」 「田口」 「はい」  不安はある。だけどこんな時こそ団結しなければ。田口はそう心に言い聞かせた。

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