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第4章ー第52話 年頃娘
「か、可愛いって……」
田口は頬を染めた。
「からかわないでください」
「別に。からかっていないだろう。いい話し方だ」
「係長!」
「梅沢だってそう都会ではないのにな。雪割の人たちの言葉はいい。気に入った」
保住は嬉しそうにニコニコとして部屋に向かった。途中、半分開かれた部屋に芽衣がいるのを見かけた。彼女は自室にこもりがちだ。なにやら難しい顔をしてノートとにらめっこをしていた。田口と保住は、ふと足を止める。
田口は芽衣が心配だった。こんな子ではなかった。明るくて、田口によく懐いてくれていたのに。思春期とは、こんなにも難しいものなのだろうか。なんと声をかけたらいいのかわからない。
田口の戸惑いを察知しているのか。そもそもが気になっているのか。保住は、目を細めて田口と芽衣を見比べてから、突然、芽衣の部屋に声をかけた。
「なにやら行き詰まっているようだが」
彼が芽衣に声をかけるだなんて、思いもよらない行動だ。田口は目を見張る。芽衣も、弾かれたように顔を上げてから、さっとノートを隠した。
「別に。なにもない、です」
「なにもない顔はしていないぞ。失礼する」
「係長」
年頃の女の子の部屋に入るのは、身内でも恥ずかしいのに、彼は御構い無し。芽衣は初対面に近い保住を警戒しているようで、じっと二人を見返してい。
「こんな見てくれてだが、少しは人生の先輩だ。困っていることがあれば話すのが一番だ。黙っていても、誰も察してくれることなんてないのだ」
「別に……」
「ほら、おじさんの田口がよく話を聞きたいと言う顔をしているぞ」
「係長!」
人をダシにして……と思いつつ、心配していたことには変わりない。芽衣と話せるきっかけを作ってくれた保住に、内心感謝する。
「なちか心配事でもあるのかい? おれも、なかなか帰ってこないからさ。悪いんだけど」
「別に……銀ちゃんのせいじゃないし」
「でも、もっと頻繁に帰れれば、芽衣ちゃんの相談にも乗れるし。あ! おれなんか相談相手にならない話?! ごめん! 余計なお世話かよ?!」
田口は、顔を赤くした。もしかして、好きな子の話だったりして……と思ったからだ。
「な……なんで銀ちゃんが赤くなる訳?」
「だって、好きな子の事、とか?」
田口の言葉に、逆に芽衣が顔を赤くする。
「そんなんじゃないよ! 彼氏もいないし、好きな子なんていないし。こんなド田舎で、そんな子いないし」
「ど田舎?」
保住はその言葉を繰り返した。そこで田口も気がついた。
――ああそうか。
「もしかして、進路のこと? 勉強か」
「え?」
指摘された芽衣は、はっとして視線を落とした。
――図星か。こんな田舎から抜け出したいのか?
彼女は観念したのかポツポツと話し始めた。
「お父さんとお母さんには言えない。じいちゃんたちにも。本当は、ここから出てやりたいことがあるんだけど、女の子は地元に残ってればいいって。いつも言ってっから」
「芽衣ちゃん……、ここじゃないところに行きたいのか?」
「もっとちゃんと勉強して、やりたいことあるんだ。地元の高校には行きたくない。でも、勉強も捗らないし。誰にも相談できないし。なんだか、最近嫌なことばっかりだし」
随分、悩んでいたのだろう。大人の田口でさえ、ここを出たことを悩むのだ。芽衣にとったら、最重要課題であることには違いない。
「銀ちゃんなら気持ちわかってくれるかな? なんても思ったけど忙しそうだし。電話も出来ないし」
「芽衣ちゃん。ごめん。気がついてやれなかったね」
「銀ちゃんが悪いんじゃないよ。忙しいでしょう?」
田口は保住をちらりと見る。
「まあねえ」
「忙しくさせているつもりはないが」
「そうでしょうか?」
保住は鈍感。仕事のことは切れ者だが、そう言うところは鈍感なのだ。
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