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第4章ー第53話 少女の夢

「芽衣ちゃんは、ここを出てやりたいことあるの?」  彼女は頷く。 「お母さんみたいに野菜の研究したい。もっと美味しくて、安定して作れるようになるといい。それに、今まで誰も食べたことのないような野菜作ってみたいの」 「それはそれは」  保住は感嘆の声を上げた。 「それに、日本のこの技術を発展途上の国にも伝えたり、世界中の人に知ってもらいたい」 「芽衣ちゃん」  ――ある意味自分よりもしっかりしているのではないか?  田口は内心、苦笑していた。自分は一公務員で精一杯なのに、彼女は世界にまで飛び出したいらしい。 「素晴らしい!」  突然、保住が叫ぶ。芽衣が驚いたのは当然だが、田口も驚いた。 「素晴らしいな。その年で視野が広い。感心する! それは是非、叶えなくてはなるまい」 「係長、しかし。うちは古い家ですから。なかなか難しいですよ。男ばっかりの中でせっかく生まれた女の子を手放すとは思えません」 「田口、なにを言う。お前がそんなんだからダメなのだ。こんなステキな夢がある姪っ子を見捨てるのか? そんなつまらないことで潰してしまっていい夢なのか?」 「そんなことは言っていませんが」 「では、なにも迷うことはないではないか。親御さんの気持ちは想像はつく。おれは親にはなっていないから、想像することしかできないが……。きっと身を裂くような思いなのだろう。しかし、だからこそ! 可愛いからこそ旅をさせねばなるまい」 「係長」 「彼女のノートを見ると、勉強の仕方がんからないのだろうと理解する。やり方がわかれば、勉強なんていくらでもできる。こんなステキな発想があるのだ。センスがある」  芽衣は保住の言葉に顔を赤くした。 「自分の夢は自分で掴み取るしかない。田口にやってもらうことでもないのだ」  保住は芽衣を見る。 「相手を説得するには、納得できるような対価が必要だ。君の夢に反対する者たちを有無を言わせず賛同させるには、勉強して結果を出すしかあるまい」 「係長さん……」  保住は芽衣に手を差し出す。 「見せてみろ」  彼女は一旦は隠したノートをそっと差し出した。 「ふむ、今一歩だな」 「明日、学力テストなんだけど、全然集中できなくて」  保住はノートを机に置いた。 「テキストを出してみろ」  芽衣は保住に言われた通り、テキストを引っ張り出す。 「この問題は、大した応用ではない。この考え方だと、次の問題に支障をきたす。もう一度、最初から理解し直す必要がある」  ――始まった。いつもの職場みたいだ。    保住にダメ出しされている芽衣は、自分を見ているようだ。最初は、面食らっていた芽依だが、保住はさすが頭がいいだけあって教え方が上手だ。いつの間にか、素直に指導を受けている。これが始まると、しばらくは終わらないだろう。田口は苦笑いをして、その場所を離れた。

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