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第18章ー第149話 答えは一つ

 田口は自宅に保住を連れてきたが、正直これからどんな話をしようかと内心は焦っていた。だが黙り込んでぶすくれている割には視線が泳いでいるところを見ると、保住も戸惑っているのだろう。自宅に帰り着くと彼をソファに座らせた。  保住が田口の自宅に足を運ぶのは久しぶりなのではないだろうか。骨折してからはない。せっかく付き合うことになったというのに、保住は骨折したり、仕事が忙しかったり、で二人でゆっくり過ごす時間などない。こうして二人きりになると、よそよそしいばかりだった。 「保住さん、なにをイラついているのですか? みんなが困っているではないですか」 「イラついてなどいないだろう。おれは仕事をしているだけだ」 「十文字だって一生懸命に取り組んでいるんですよ? 0点ってないですよね?」 「0点は0点だ。正直に言ったまでだ」 「それでも……」  田口はため息を吐いてから、ソファに座っている保住の隣の床に膝を着いた。澤井と初めて寝た時も、こんな形で話をしたのではないかと思った。怒っている保住の視線に怒りで返すことは得策ではないと思った田口は、瞳を細めて表情を和らげた。 「保住さん」 「機嫌が悪いわけではない。それに、八つ当たり出来るのはお前だけだし……」  ――子供か。  プイっと視線を逸らす保住の両手を握る。 「昨晩は十文字と食事しましたよね? なぜおれに言ってくれないんですか」 「お前にいちいち言う必要はなかろう。保護者でもあるまいし……」 「いいえ! おれはただの部下の一人なんですか? 恋人ではないということですか?」 「それは……」 「あなたがおれの知らないところで、別の誰かと二人きりで過ごすこと、おれは良しとしません。心配になりますし、ヤキモチを焼きたくなります」  田口は素直に自分の気持ちを口にする。 「体調が悪いのは重々承知なのです。ですがおれもハッキリしないから、あなたもどうしたらいいのか分からないのではないのかと思っています」  田口は真っ直ぐに保住を見つめたが、保住は視線を逸らしたまま答えた。 「お前がハッキリしないなんてことは関係ない。おれ自身の問題だ。――わからないのだ。付き合い方が。お前にどう言ったらいいのか。どうしたらいいのか、わからない……」  最後の方は消え入りそうな声色に、田口は「保住も悩んでくれていたのだ」ということを確信して嬉しい気持ちになった。 「おれたちのこと、考えてくれていたんですね」 「考えない時があるか。お前のことばかり気になるのに。無視するわけにはいかない」 「そうですか」  田口は嬉しそうに笑みを浮かべたが、保住は顔を赤くして視線を彷徨わせる。 「すまない気持ちばかりだ。お前には八つ当たりはするし、我がまま言い放題。仕事の穴まで埋めてもらって」 「悪いと思っています?」 「思っているに決まっているだろう」  田口は更に笑んでから、保住の両手を握る。 「でしたら、やはり。あなたをください」 「な、なに?」 「キスだけでは嫌です。あなたの体調を気にして手が出せませんが。きっと、それもあなたの不安や、おれの不安を掻き立てるのではないでしょうか。口約束だけでは曖昧です。きちんと恋人になりたいのです」 「それは――すまなかった。あんな大事な時に骨折など……」   保住の言葉は言い訳ばかりに聞こえる。田口の前では、てんで駄目な男だ。話している内容も、全く意味をなさない。混乱してしまうのだろうか。自分の方が冷静。 この場の主導権は田口に軍配が上がっているも同然だ。いくら保住が言葉を重ねても結果は同じ。一つしかないのも、わかっているのだろう。  泣きそうになって、困って縋るように田口を見る保住が愛おしくて仕方がない。田口は腕を伸ばし保住の肩を抱き寄せた。 「もういいのです」 「田口……」 「言葉よりも、あなたの体に聞きたい」  ぎこちなく触れてくる田口の指の感覚が保住の心を熱くする。そっと手を添えられたかと思うと、唇にキスが落ちてきた。 「田口……」  吐息交じりに田口の名を呼ぶと、彼は嬉しそうに口元を緩め、それから更に深く深く口付けを交わした。 「保住さん、愛しています」  キスを繰り返しながら背中や腰を這う田口の指先は熱がこもっている。触れられたその場所がチリチリと火傷をしたみたいに感じられた。

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