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第20章ー第182話 頭洗ってあげたい*
半分寝ぼけ眼の保住は、扱いやすい。頭が働いていないのだろう。唇をこじ開けて、無理無理舌を差し入れる。それから、隈なく口内を舐め上げた。
粘膜が擦れ合う音がバスルームに響く。田口か、逃れようとする保住の躰をしっかりと押さえこんで、逆に引き寄せた。
どちらともつかない唾液が顎を伝わり、下に流れていく。
「や、……ん」
鼻から抜けるような声色は、田口の本能を刺激するばかりだ。保住の唾液を吸い上げてから、口を離すと、彼はかなりご立腹なのだろう。
下から田口を睨みつけた。
「お前な! 風呂に入るとは言ったが、こんなことするなんて了解していない!」
「あ、そうですね。頭洗うって」
「そうだ!」
「すみませんでした。では、そのようにいたします」
田口はぺこりと頭を下げてから、そっと保住のワイシャツに手をかけて、ボタンを外していく。その様子を眺めていた保住は、田口のワイシャツのボタンを外した。
お互いに相手の服を脱がすという行為は、なぜかそれだけで気持ちが昂った。
脱衣場に服を脱ぎ捨て、それから保住を座らせる。後ろからシャワーをかけてやると、気持ちよさそうにブルブルと震えた。
「保住さんの、この首の後ろが好きです」
「余計なこと言っていないで、さっさと洗え」
「はい」
泡だらけになりながらも、大人しくしているところを見ると、それはそれで悪い気持ちにはならないらしい。
「人に洗ってもらうのは、なかなかに気持ちがいいものだな」
「ですよね。おれので大丈夫ですか?」
「お前もなかなか上手いぞ」
「ちからありますからね」
わしゃわしゃと地肌を撫でるように洗い、それからシャワーをかけた。なんだか、雨に濡れた猫みたいに見えて、田口はドキドキとした。
保住の裸体は見慣れているはずだ。それなのに。シチュエーションが変わるだけで、こうも新鮮な気持ちになるものか?
「今度はお前のを洗って――」
そう言いかけて振り向いた保住の顎を捕まえて、そのまま唇を塞いだ。
「お前っ!」
もう我慢ができなかった。そのまま洗い場に彼を押し倒すと、キスを繰り返しながら、保住を下腹部を握り込む。
シャンプーの名残りで滑っている手のひらでその先を優しく撫でると、それはたちまちに熱を帯びた。
「やだ、田口……ちょ、風呂でなんて」
「なんだか興奮します」
「だって、こ、声が……」
「響いて、いやらしく聞こえますね。大丈夫です。隅々まで丁寧に洗いますから」
保住の堪えるような息遣い。粘膜が擦れて放つ卑猥な音が、湯気の立ち込める息苦しい空間を満たす。
「だめだ」と言いながらも、縋ってくる保住の腕は、いつもよりも熱くて、まるで蛇のように田口の躰を締め付けた。
それが堪らなくて、堪らなくて我慢できない。彼への想いをどう表現したらいいのだろうか。無意識に保住の肌を吸い上げていたのだろうか。躰のあちこちに浮かび上がる自分の跡を見て、田口は「ああ」と思った。
――澤井さんの気持ちが、今ならよくわかる。澤井さんは、こうして、保住さんをどうしたらいいのかわからないくらい愛したんだ。
既に我慢の限界を超えている。濡れて、滑っている躰は容易につながり合った。
「は――っん」
保住が息を呑むのがわかる。感じてくれているのだと思っただけで、自分の熱は荒ぶるばかりだ。
「好きです。保住さん……っ、おれ。あなたがいないと……」
腰をぎりぎりと擦り付けると、保住は「ひっ」と息を呑んだ。
「田口――」
「保住さん」
「そばにいろ。――ずっとだ。おれがいいと言うまで。ずっとだ……っ」
「ああ、保住さん」
――保住さんが好きすぎて堪らない。こうして何度も何度も、繋がっていると言うのに。こと足りないんだ。
繋がれば繋がるだけ、それ以上の情欲が湧いてくる。それはただの肉欲だけではない。保住という存在自体が愛おしくて、尊くて堪らないのだ。
互いの名を呼び合いながら果てるこの行為は、田口にとってあきたらない。むしろ、貪欲にもっと――もっと味わいたいと思うばかりだった。
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