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第26章ー第228話 お見合い

 母親たちを連れて、田口はタクシーに乗り込み駅前のホテルへ向かった。 「あんだの家でよかったのに」  母親の言葉に首を横に振る。「もう自宅はありません!」なんて言えないからだ。 「失礼だろう。そんなの。ちゃんと予約してあるから」  平日で助かった。保住に促されて市内のホテルのレストランを予約出来たのだ。ランチ時間とはずれるが、なんとか食事にはありつけるようだった。そこで食事でもして、後は新幹線に押し込んで帰ってもらうのが一番いい。これからの予定を考えながら、田口は三人を予約席に連れて行った。  佐藤義一郎という男は、母親の家系の本家にあたる。母親の祖母の実家だ。優愛という女性は、義一郎の弟の妻の兄弟のいとこの子らしい。かなり遠いし、どんな関係なのか理解しがたい。 「優愛ちゃんは、大学が梅沢大学だったんだ。それで、銀太が梅沢にいるなら、結婚したって慣れた土地だし。問題ねーべってことになったんだ」  義一郎はそう説明する。二十七だか二十八だかと聞いていた。とすると、田口の後輩にあたるのか。雪割から梅沢大学に来るなんて、珍しいコース。彼女もまた少し変わっているのかも知れないと、内心思う。 「しかし大きな役所だな。雪割の役場とは違うな」 「だな。私も初めて来た。あんだの職場なんて、なんだか感激だよ」  母親は笑顔を見せて心から嬉しそうにしていた田口にとったら、大変迷惑な行為であることには違いないが、彼女がそんなにも嬉しそうな顔をするのであれば、それはそれでいいのかも知れない。こんな大人になって息子の職場を見に来る親もいないが、見たら喜ぶものなのだろう。確かにそうかも知れないなと、田口は思った。 「恥ずかしいから。やめろよ」 「だって。いいじゃない。それよりも優愛ちゃん、どう?うちの銀太は?」  単刀直入過ぎだろう。田口は冷や汗をかくが、彼女は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。 「写真通りの方ですね」 「写真って。おれの写真出したの?」  母親を睨む。 「だって見合いだもの。あんだの出さないわけにいかないでしょう」 「だけど」  結局はおしゃべりな母親が中心になって話が進んでしまう。三十分程度食事をした後。義一郎が席を立った。 「じゃあ、ここからは若い二人で話をするといいべ」 「え、二人。ですか」 「んだ。おれたちがいたら、言いたいことも言えないだろうし。おれたちは土産買ってっから。そこに物産館あるんだべ」  ホテルの最上階からの眺めはなかなかのもの。義一郎は向かいにあるコンベンションセンターを指さした。 「一階に観光物産館があります」 「お土産ね。いいわね。じゃ、1時間後にその店の入り口で待ち合わせしましょう」  母親と義一郎はにこにことして店を出ていった。それを見送ってから田口は困ったと思う。女性と二人きりなんて本気で苦手。緊張していてほとんど食事の味がわからなかったくらいだ。今度、保住を連れてこよう。絶対に彼と来てみたい。そんなことを内心思っていると、「あの」と優愛が声を上げた。  ――そうだった。彼女と二人だったんだ。  一気に妄想から引き戻されて、田口は優愛を見た。  「すみません。騒がしい母で」 「いえ。こちらこそ。すみませんでした。お仕事も忙しいのに……押しかけてしまうなんて」  「いや。おれが、きちんと話をしておかなかったせいです。母が勝手に暴走して、巻き込まれてしまったのでしょう?申し訳ありませんでした」  彼女は田口の返答に、なんだか嬉しそうに表情を明るくする。 「やだな。田口さんって、優しくて、素敵男子っぽい」 「?」 「写真を見て思いました。誠実そうな人だなって」  保住みたいなことを言う。なんだか恥ずかしい。頬を赤くした。 「そんなこと。面等向かって言われると照れます」 「ごめんなさい」 「いや。こちらこそ」  ぎくしゃくしてしまう会話。優愛は思ったよりも大人しいタイプではないらしい。二人きりになると、笑顔を見せ、朗らかに話をしてくる。  男だったら放っておかないだろうに。どうして見合いなんて。なんだか第三者的な視線で見てしまうのは、自分は、はなから関係ないと思っているせいなのだろうか。彼女には失礼な話だが。はっきりお断りするのが礼儀だ。他愛もない話をしている中だが、田口は切り出した。 「あの」

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