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第27章ー第238話 置いてきぼりの不安

 翌日。いつまでも鳴らない目覚ましに違和感を覚えて身体を起こした。寝坊ではない程度の時刻だが、目覚ましの時間はとうに過ぎていた。  ――自分で止めたのか? それとも自分で止めたのか?  昨晩。田口はいつもよりも遅く帰宅した。「先に帰る」「寄っていくところがある」と言っていたが、帰ってきた彼はなにも言わなかった。と言うより、待ちきれなくて先に眠ってしまった自分も悪いのだが……。  それにしても遅かった。しかもお酒の匂いがした。自分に内緒で誰と飲み歩いているのか、いちいち尋ねたり、咎めたりするのもおかしいと思うが自分の知らないことがあるということ不安になるものだ。  なんだか気分が晴れないまま、もちゃもちゃの頭をかいてリビングに顔を出すと、珍しく田口が起き出して朝食の準備をしていた。 「また、雪でも降りそうだな」 「そんなこと言わないでくださいよ。おはようございます」 「おはよう」  届いている新聞を片手にソファに座ると、田口がいそいそとやってきた。 「今日は残業なしにしてもらえませんか」 「え? 残業は自分の裁量でやれよ」 「違いますよ。保住さんです」 「おれ?」  保住は目をぱちぱちと瞬かせた。 「そうです。今日の夜は仕事なしにして欲しいんです」 「そう? なにかあったか?」 「大ありですよ」  自分とは正反対にご機嫌な田口。今度はなにが始まるというのか。なんだか心が晴れないおかげで、田口の上機嫌に付き合う元気もないらしい。特に問いただす気にもなれずに、そのまま返事をした。 「わかったよ。定時で上がればいいのだろう」 「よかった。そうしてください」  腑に落ちない気持ちのまま、保住は立ち上がって顔を洗いに向かった。 ***  今日は定時上がり。そう思っているときに限って夕方に面倒な電話が入るものである。 「係長、電話ですよ」  五時十分。  ――終業五分前に電話を寄越す非常識野郎は誰だ?  保住は側の受話器を持ち上げてから声を上げた。 『お疲れ様! あのねー、悪いんだけど、おれの部屋に来られる?』 「今からですか?」 『そうそう。そんなに時間取らせないから』 「明日ではいけませんか?」 『ごめんねー。忙しいのはわかっているんだけど……ちょっと来年度の件で話したいことがあってね。今日中なんだよね』  保住は田口を見た。彼は気が気ではないという顔をしていた。今朝、残業なしの約束をしたのに破ることになるなんて。しかしいくらなんでも財務部長の命令をきかないわけにもいかない。大きくため息を吐く。 「手短にしていただけますか」 『もちろんだよ! じゃあ、すぐに来てくれる?』 「承知しました」  保住は受話器を置いて田口を見た。 「すまない。吉岡部長からの呼び出しだ。至急らしい」  それに答えたのは渡辺。 「もう仕事終わりの時間じゃないですか。なんでしょうか?」 「わかりませんけど、とりあえず行ってきます。みなさんは、時間になったら帰っていてくださいね。残業はなしで」  申し訳のない気持ちいっぱいで田口を見ると、彼は「待っています」と言う顔。なんだか嬉しい気持ちも覚えながら、事務室を後にした。  廊下に出ると携帯が鳴る。胸ポケットから取り出して見てみると田口からのメールだった。 『待っています。時間気にせずに』 「すまないな」  ――ともかく早めに用件を終わらせる。  階段を駆け下りて、一階財務部長室に足を向けた。年度末でどこもてんてこ舞い。怒声が響いている部署もある。これこそ役所の年度末。そんなことを考えながら、古びた扉をノックした。 「保住ですが」 「入って!」  明るい声色は、仕事の件ではない気がしてならない。顔を出すと案の定、吉岡は仕事とは関係のなさそうな袋を持って待っていた。

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