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恋人になる為に(仮) 第1話

「また値上がりしちゃいましたよね〜タバコ!」 「…あぁ。」 「辞めれないもんっすか?」 「…あぁ。」 聴き心地の良い声だ。 手つきも慣れたそれで安心出来る。 「やっぱですか?みんな言うんスよね〜… あ、1000円お預かりします。」 仕事終わりの自分には眩しすぎるキラキラの笑顔を向けるこの男。 “ささき”という名札を眺めつつトレイに札を置けば、 ついでに伸びた手がそれを受け取り、指で弾く。 この世間話が好きで、いつからか仕事終わりは殆ど毎日ここへ寄るようになった。 仕事中は常にパソコンに向かい、特に交友関係の広く無い俺は昼休憩もコンビニか近くのラーメン屋で1人飯だ。 会話という会話を誰ともする事なく終わる1日の最後に、この全くもって疲れを知らなそうな店員に 少しばかり、元気を分けてもらうくらいは許してほしいものだ。 いつか、俺が要らないと突き返した日から渡されなくなったレシート。 小銭を2つのポケットにそれぞれ種類分けして収めている事に気が付いたのか、 釣りはしっかりと分けて手渡される。 なんとも常連客になったものだ。 「ありがとうございまーす!またお越しくださいっ。」 コンビニを出る間際、いつもの笑顔で見送る“ささき”とほんの一瞬目が合う。 軽く頭を下げ、煙草の封を切りながら 隅に建て付けられている灰皿の元へ向かった。 時刻は既に22時を回っていた。

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