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第6話

職場に到着するも、雨に打たれて不機嫌なのはどうやら俺だけではなかったようだ。 窓越しに事務所を覗いてみれば、そこかしこで文句を垂れ流してはタオルを被る社員達。 傘も役に立たない大雨なのだから、文句をつけても仕方ないだろうに。 そんな光景を他人事のように眺め(勿論俺もタオルは被っているのだが)扉を開ければ、 音に反応して振り返った彼らは何故か息を飲む。 騒がしい空間が一瞬にして ぴたりと静寂に包まれた。 …? あ、メガネか。 大雨の日や目の調子が悪い日は、ごくごく稀にメガネをかけて出勤する事もあるのだが、 その度に一瞬にして事務所全体が凍りつくのだ。 似合わないと小馬鹿にでもされているんだろうか。 まぁ、そんなのは俺の知った事ではない。 気分を害すならばレーシック代を経費で落とせ。 …いや、コンタクトすら装着不可能な俺が眼球にメスを入れられるなど言語道断ではあるのだが。 とっ、兎に角金を稼ぐための空間に恥じらいや屈辱感を持ったところで全くの無意味というわけだ。 どうせ笑うのなら見えないところで笑ってくれ。俺も人なんだ。気になるもんはそりゃ気になるさ。 「お…おはようございます。あの、竹内さん…ですよね。」 「あぁ……。なんだ。」 一番に声をかけてきたのは法月という 今年中途で入ってきたばかりの社員だった。 部下ではあるが、年齢は変わらない。 そういう類にあまり興味のない俺でも知っている有名大学の出だというのに、 わざわざこんな地味な職場を選んだ理由は未だに謎だ。 「いえ…マスクを外している所、初めて見たなぁと思いまして。かっこいいです。 以前から整った顔立ちをされている思ってましたが、これはとんでもなく想像を超えました。」 昨日も聞いたような台詞だな。 俺はいつから男にモテるようになったのだろう。 嬉しくないわけではないが、どちらかと言えば女性に言われた方が嬉しさも倍増ってやつだ。 「…メガネが曇るんだよ。」 PCの電源を入れ、昨夜のUSBを通勤バッグから探り当てるのだが──。 真横から感じる法月の視線。 凄まじ過ぎて痛いんだがこりゃ一体何事だ?

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