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第5話

枕元で騒ぐアラームに目を開けると、 時間を間違えたかと疑うほどに外は真っ暗だった。 締め切っていても聞こえる音は、しとしとだのザーザーだの、そんな可愛い音で表現出来るものではない。 寝室が1階だからという理由もあるのだろうが、地面を叩きつけるような激しいそれは 時折ピカッと光る雷鳴すらもかき消す程だ。 気圧の変化に弱いらしいグラつく頭をゆっくりと持ち上げ、テレビのチャンネルをいくつか回すと 丁度天気予報を流していたニュース番組で手を止める。 『今日は広い範囲で大荒れとなるでしょう。特に××地方では、夕方から明け方にかけて、雨風ともに強まる見込みで……………雷を伴う強い雨が────。』 …おいおいおい、最悪だ。 今でもかなり強く降っているというのに、 天気はそれ以上に荒れていくと言う。 しかも××地方って………まさにここじゃないか。 仕事を終える頃には、ただでさえ悪い視力がブルーライトにあてられて更に霞むのだ。 通勤距離が特別長いわけでもないが、雨の日や霧の濃い日なんかは少なからず恐怖を伴うもので。 この頭痛といい、視力の低下といい、いつぞやに患った自律神経失調症だかが影響しているらしいが…。 あまり好きではないが仕方ない。 今日はメガネをして行こう。 ちなみに俺は26年間生きてきた中で コンタクトレンズを入れた事がない。 目の中に異物を入れるだなんて頭がおかしいとさえ思う。想像しただけで震える。 それに外し忘れて居眠りでもしたら、目の裏側に入り込んで緊急手術だ。 ……と、噂で聞いたこともあるしな。 そんな危険を冒してまで使おうとは到底思えない。 だが、メガネも不便だ。 なんたって曇る。 マスクをしていると驚くほどにメガネが曇る。 「ちょおまっ、メガネくもってんぜwww」などと他人にイジられない為には、メガネorマスクという究極の選択をせざるを得ないのだ。 数分ほど引き出しの中のそれと睨めっこをした末に、意を決してケースを開ける。 あまり使わないせいか、ぱっと見は新品同様の黒縁のメガネを押し上げて、 冷蔵庫から取り出したエナジードリンクを片手に家を出た。 扉を開けるや否やどしゃどしゃと降りしきる雨の音を聞き、地面から跳ね上がった飛沫がスラックスの裾を濡らす。 駐車場までのほんの数秒で頭から足もとまでびっしゃりと濡れてしまうものだから、実は俺の傘は雨を浸透させる不良品なんじゃないかと本気で疑った。 まだ出勤すらしていないというのに 既に家に帰りたい衝動に駆られたのだが。 雨水が飲み口に溜まり、もはや飲む気の失せてしまった黒い缶をドリンクホルダーに落とし、 タオルを頭から被ったところで、咥えた煙草に火をつける。 ──が、 少しでも窓を開ければすぐさま降り込むしつこい雨に、真新しいそれは簡単に天に召されてしまうのであった。 思わず舌を打ちながら早々に衰弱しきった火を潰す。 指輪型の小さな傘でも販売してくれればよいものを。……ちょっと可愛いな、それ。

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