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第13話

土日完全休業のうちは、週末に仕事を持ち帰る事など余程のことがない限り許してもらえない。 何でも、以前取引先のデータを丸ごと持ち帰った社員が泥酔し、駅に鞄を放って行方をくらましたなんていう、大惨事一歩手前の珍事件があったらしい。 聞いた話なので詳しくは知らないが。 それから顧客の情報が載っているような仕事の持ち帰りについては特に、厳しく制限されてしまったのだ。誰にも見つからぬようこっそりとUSBメモリに移す作業がどれほど大変なことか。 そうなるのも仕方がないさ。 許されないとはいっても、締切り日に融通が利くはずもなく、金曜日だというのに積もりに積もる書類の山。 紙だけでも職場に置いていく努力をした俺をむしろ褒めて欲しい。 悪戦苦闘しながらようやく切りが付いた頃には、20時半を過ぎていた。 …ちなみに定時は2時間前の18時半だ。 これでもまだ、いつもよりは早い方か。 すっかり人の気配も無くなった事務所では、空調の音と、それから窓の外で相変わらず土砂降りの雨の音が、妙に大きく響いて。 上司が毎日仕事に追われながら残業をしている中、法月は決まって定時に帰りやがる。 薄情なやつめ。 まぁ、完全に自分が悪いのはわかっているから仕方ないのだが。 こんな風に、一度集中すると周りが見えなくなるのは自覚済みの悪い癖だった。メガネを外せば、眉間辺りの窮屈さから解放される。 大きく伸びをして、手早く帰り支度をする最中、 隣のデスクをふと見ると、小綺麗に整頓された書類に、コンパクトサイズの加湿器なんかも置いてある。 細かいところまで洒落込んだ男だ。本当に。 そんな奴が──。 昼間の言葉が脳裏に過って、ゴクリと唾液を飲み込む。 男が男を好き、か。 今まで考えた事もなかったな。 そういったセクシャリティを持つ者もこの世には存在するのだろうと、認識こそはあったものの まさか自分が、その様な人物と関わる事になるなんて。 それどころじゃない。 そいつに、“そういう目”で見られていただなんて…。 しかも、相手は今年入って来たばかりの部下なのだ。無下に扱ってこの優秀な社員が辞めてしまっても困る。 なんとも、難しい立場に置かれてしまったものだ。 「…………はぁ…。」 深い溜め息がまた漏れる。 これも恐らく俺の癖の一つだろう。 給湯室に重たい足を運び、すっかり冷えてしまったコーヒーを捨てて シンクに映る自分を睨みつけてカップをゆすいでいたその時だった。 一際眩しい光が、俺の視界を占拠した。 ゴロゴロゴロ……… 雷だ。 音を聞く限り、まだそう近くは無いだろうが 夜明けにかけて更に荒れると天気予報士が言ったように、きっとまだこの天気は続くだろう。 早く帰って、停電に備えた方が良さそうだ。

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