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第29話

「…悪い。先に風呂使うぞ。」 いつまでも目を真ん丸にして、まるで狸にでも騙されたように俺を見る佐々木から 今は一刻も早く離れたかった。 佐々木の俺に対するイメージはよく知っている。 マスク、75番、長身とかそんなものだろう。むしろそれ以外の情報を与えた記憶が無い。 強いて言うならば社畜で手の早…いやいや、人助けをする心優しい青年であるということくらいか。 …心優しいは余計だった。 まあ何であろうと、彼が培ってきたこれまでの俺の認識。“竹内という長身の客”が、実は165cmにも満たないミニマムサイズだったんだから言葉を失うのはわかる。 わかるけども。 「……見過ぎだ。」 「え、いや、だって、あの、うん。」 「言いたいことはわかる。でも言うな。…でないと今すぐ追い出す。」 ここまで正直な奴もなかなか珍しいのではないか。この場合、普通なら不自然なりにも平静を装う努力をするものだ。 そうしてもらえないと、こちらとしても大変やりづらい。 「すいません。何でもないっス。」 「よし。」 変わり果てた姿(縮んだだけ)の俺を見下ろし、 佐々木は笑うわけでもなければ、それ以上問い詰める事もしない。 …問い詰めようがない気もするが、多分そこまで考えが回ってもいないだろうな。 「風邪ひくから、髪くらいは拭いておけ。」 今朝、家を出る時点で玄関に用意しておいたタオルを投げると、上手く受け取った佐々木はようやく意識を取り戻したようで、二、三度ぱちくりと瞬きをする。 「ありがとうございます…。」 そのありがとうございますは、コンビニで飽きる程聞いてきたそれとは随分異なる、勢いの失われたか細い声であった。 風呂場に辿り着いた頃、リビング方面では「ぶえっっくしょい」という凄まじい迫力のくしゃみが響く。 仕方無く浴槽に湯を張る準備を整えて、シャワーを頭から被った。 * サイズの合わないスウェットを精一杯捲し上げて廊下を歩く。 仕方ないだろう。厚底を履いた状態の俺がどうやって自分に合ったサイズの服を買えばいい。 メンズSサイズの表記に気付いた店員に「サイズはお間違いありませんか?」と聞かれたあの日の出来事は、今でも夢に見るほどトラウマとして己を苦しめ続けている。 それからはどう頑張ってもLLを手に取ってしまうようになった。袖や裾の口がきゅっと締まっているタイプのスウェットを買うしか、もう俺には手段がないのだ。 新しいバスタオルと、念の為フェイスタオルも用意してリビングへ戻れば、 濡れた学生服を鞄の上にくるんと丸め、ソファで寝そべりながらスマホをいじる佐々木の姿が目に入った。 場に慣れるのが早すぎるぞ、お前。 少しは緊張くらいしてもいいだろうに。 「出たぞ。ほら、風呂場まで案内するから。」 「……~~~~~っ。」 無言で頭を抱える佐々木。 意味がわからず立ち尽くす俺。 「サイズ合ってなさすぎません?…可愛い。」 もういい。 やっぱりこいつ、今すぐ追い出したい。

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