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第30話

立ち上がった瞬間に俺より頭1つ分大きくなるこいつが憎くて堪らない。 俺の方が前にいるのに、後ろを歩く影の方が長いのが気に食わない。 昔の造りの為、背の低い扉の上枠を気にしているのが本気でムカつく。当たらんわ。 「…10秒で出ろ。」 「んな無茶な!」 振り返ると完全に見下されているのが恥ずかしい。 本当に、こんなつもりじゃなかったのに。 よく行くコンビニの店員でしかないのだが、だからと言って俺の秘密を知られてしまうのは悔しくて。 それも社会人になってから家族以外の誰にもバレずに過ごして来たのだから、じわじわと伸ばし続けてきた記録がここで途切れてしまったのは無念も無念。悲しい限りだ。 笑うなら笑えばいい。 馬鹿にしたいならすればいい。 せめてあと10cm高ければ、少し小柄なくらいで済んだのに。 他人から見れば小さな事かもしれないが、昔からコレのお陰でいつも馬鹿にされてきたんだ。 前ならえで前をならってみたい小柄な同級生の願いを何度叶えたと思っている。 歳を取るごと、日を増すごとに、それは大きなコンプレックスになっていった。 「えっと…10秒はキツいッスけど、なるはやで出るんで許してください。」 「別に冗談だ。」 「冗談の顔じゃないッスよ竹内さあぁん!」 佐々木の態度があまり変わらないのを嬉しく思いながらも、やっぱり何処かで馬鹿にしているんだろうと疑いをかけているせいか眉間には深くしわが寄る。 そのせいで俺が本気で怒っていると勘違いをさせてしまったのかもしれない。虚勢張って周りに威嚇しまくる犬コロじゃないぞ俺は。 確かに身長差にムカついているのは本当だが、半ば強制的に家に連れ込んで泊めるというのだから、俺が怒れる権利が何処にあるのか逆に聞いてみたいものだがな。 「雷が近いから…その、早めに出ないと停電するかもしれないと言ってるんだ……察しろ。」 「あー、へへっ。心配あざす!急ぎますね!」 へへってなんだ。 声に出すもんじゃないだろう、そういうのって。 漫画や小説の中だから許される効果音ではないのか。 リビングに戻り、いくつかチャンネルを回して時間を潰そうと試みたものの 予想通り、放送されているのは災害情報を中継しているニュース番組ばかりだった。 と、先ほど佐々木を乗せて断念した橋の前から中継している番組を見つけ、思わず手を止める。 俺が見た時より更に水位は上昇しており、辺りには避難勧告も出されているようだ。 もし俺があの時佐々木を車に乗せなければ、多分今頃ちょうどこのあたりに辿り着いて居ただろう。 車内からでも危険が迫っている事は十分伝わったが、それからほんの数十分後には画面越しであるにも関わらずそれ以上の危険を察知できる状態に膨れ上がっているなんて。 下手したらコンビニにはもう引き返せない状況になっていたかもしれないと思うと、この選択もあながち間違いではなかったのかもしれないとほっと胸を撫で下ろしたのだった。 と、その時。 突然中継場所が広く光った。 ほぼ同じタイミングで自宅からも稲光を確認でき、そのすぐ後を骨の髄まで響く音と振動が追い掛ける。 全ての明かりがぱたりと消えたのは、それからすぐの事だ。

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