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第31話

一瞬にして消えた電気。 一瞬にして静かになった空間。 そう。全ては一瞬の出来事だった。 それまでのゴロゴロというくぐもった音ではなく、バリバリという破裂音と共に地響きがしたという事は…今回のは何処かに落ちたのだろう。 それも、そう遠くない場所に。 手元のスマホでライトをつけると、少し距離のある風呂場を目指し立ち上がる。 まだ佐々木は出てきていない。 この家に慣れている俺ならば何とでもなりそうなものだが、今日初めてここに来た佐々木が、ろくに場所も把握していない状態で正しくタオルを手に取り、身体を拭いて着替えてリビングまで辿り着くのは難しい。 壁を伝って脱衣所まで来たものの、そこに佐々木の姿はなかった。 …まだ中に居るのだろうか? それにしては水を被る音も何一つ聞こえないのがおかしいが──。 「おい、大丈夫か?」 いきなり扉を開けるのも悪いと踏みとどまり、扉の前で声をかける。 だが、何も返事は返ってこない。 音すらしない。 何かがおかしい。 そう思い、罪悪感に駆られながらもゆっくりと扉を開ける。 「大丈夫か…?」 暗闇の中、何も見えない浴室にライトを照らす。 と、そこには裸のまま小刻みに震えて座り込み、口元を手で押さえる佐々木の姿があった。 「おい…!どうした、何があった?!」 何かに強く怯えているのか、まるで俺の声なんて一切耳に入らないかのようで。 彼は微塵も反応を示さず、蹲ったまま動かない。 雷が怖かったのか。 それとも暗い所が苦手だったのか。 俺は佐々木の事を何も知らない。 だから何もわからない。 こいつが見る世界に何が映っているのかも、 何故、動けずにいるのかも。 だが、今の佐々木の姿というのは俺が見てきた彼の中で最も弱々しい姿であり、何とかしてやらないと。 確かにそう思ったんだ。 裾が濡れる事も構わず、浴室に足を踏み入れる。 隅で丸くなる、震えた背中。 大きい筈なのに、妙に小さく思えたそれへ手を伸ばせば、びくりと大袈裟に身体を震わせたものの、それ以上に拒まれる事はなく少しだけ安心した。 「佐々木、大丈夫か?立てるか?しっかりしろ。」 こういう時、どうしてやればいいのか また、どんな言葉をかければ安心させられるのか。 経験の乏しい俺にはわからない。 自らの友人の少なさ、関わりを絶つような生き方をしてきた事を、こんなに恨んだ日はない。

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