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第39話

変な事を考えてしまったがために元気を取り戻してしまった息子を制してリビングへ戻ると、 佐々木はソファで横になりながらスマホを操作していた。 俺は別にそういうのは気にしないからいいんだが、最近の若者はここまで空間適応能力が高いのだろうか。 会計を済ませる間、2往復すれば良い方くらいの会話しかしてこなかった俺の家で、既に自宅並みのくつろぎ方だ。これはもう、尊敬に値する。 「おい、充電は大丈夫なのか?」 「ん?あー全然大丈夫じゃないっスよ!あと1%……あっ。」 あ、切れたな。 これは完全に。 舎弟になったりエロガキになったりと忙しい佐々木が、次はワンコになっている。 耳と尻尾を下に下げてシュンとしている小型のワンコ。 いや、勿論リアルでは大型だけども。 「車行くか…?充電器も挿してあるから使え。ついでに家まで送る。」 「えー!ありがとうございます!…ぁざす…。」 なんだ、最後のありがとうございますの子供みたいなおまけは。 どうして急に元気ないんだよ。 何か気に障る事を言っただろうか? 朝から焼肉が食える元気を持っていながら一体どういう事だ。 「…どうした?」 一応聞くだけ聞いてみよう。もし俺が何かしてしまったのなら謝らなければいけないし、そもそもここには俺一人しか居ないのだから原因を作るとしたら俺だ。 ……もしくはスマホで女にメールでもしていたか。 それが切れてしまったものだから既読無視だなんだと怒られるのが面倒でしょげてしまったのかもしれん。 うーん、わからない。 わからないが、もし後者なら何となくムカついてきた。 「…さん?竹内さん?」 「あ、あぁ…なんだ。」 「だーから、俺帰ったところで親仕事だし一人なんで、帰るの寂しいなーって思ったんです!…って言ったんスけど無視なんだもん。」 なんだと。 俺が勝手な想像してムカついている傍らでなかなか可愛い事を言っていたものだ。 いけない。俺もつい久しぶりの人とのちゃんとした会話で、思わず調子に乗りそうだ。 「…お前さえよければ、どこか行くか?いまから。」 「え!!まじっスか?いいんスかぁ?!」 「あぁ…。」 ……ほら乗っちゃった。 そして更に乗せちゃった。 だって仕方がないだろう。 佐々木が寂しそうな顔をしているから。 元気なさそうにしているから。 俺のこんな一言で目をキラキラと輝かせるんだから、別にいいじゃないか。 煙草の箱を取り出すと、転がっていた100円ライターを何度か弾いて火をつけた。 2回、3回と煙を吐き出すうちに、酸素を入れ替えた頭は冷静になっていく。 学生を自宅に誘拐するに留まらず、連れまわすだなんてもう言い逃れのできない立派な犯罪者な訳だが──。 まぁ、仕方ない。 俺自身も気分が弾んでしまったのだからな。

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